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燈子は必死に森の中を走……ろうとしていた。
整備された道を逃げればたやすく追われる。
だから道なき道を選んだのだが、木の根が多くでこぼこしていて、思うように進めない。なんども足をとられて転びかけ、必死に進む。
小屋に閉じ込められたあと、病狗と士郎が外に出たので、燈子は着物のたもとに入れた香水瓶を手にとった。
うまくいくかはわからない。が、頼れるものはこれしかない。
香水瓶を割って破片をくわえ、縛られた手首の縄を切った。
士郎は燈子を舐めていたのかさほどきつく結んでいなかったせいもあり、縄はなんとか切れた。
唇もガラスの破片で切れたが、そんなことを気にしていられない。
小屋の扉には鍵がないようで、すぐに開けることができた。
病狗がなにかをむさぼり食う様子が見えたので、その隙にそっと森へ入った。足音は病狗たちの立てる音でうまく隠れてくれたようだ。
道のあるほうは病狗たちがいたし、すぐに見つかりそうなので、いったん森の奥へ進んだ。それから街のあるほうへあてずっぽうで歩く。
「真世はともかく、シロマツはきっとみんなを呼んできてくれる」
だからそれまで逃げ切ればいい。
希望的観測だとわかっている。
伝令犬に伝令させるには事前に順路を作る必要があると聞いた。ここから駐屯所へのルートなど作られていないから勝算は低い。たどり着いたところで、危急の事態だとわかってもらえるかどうか。
だが、最悪はシロマツが無事ならそれでいい。
そしてもし首尾よくいったなら、軍が助けに来てくれる。
危険にさらすことにはなるけれど、病狗を放置しておくほうがきっともっと危険だ。
みんなの訓練を見てきた。みんな頑張っていた。
あんな病狗には負けない、きっと負けない。



