婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 ほくそ笑んでいると、病狗がくるっと振り返り、士郎は慌てて真顔を作った。
「少しでも妖力を補充しないとな」
 病狗の姿が膨らんだ。熊ほどの大きさになり、後ろ足で立って士郎を見下ろす。

「な、なにを」
 言葉は、最後まで出なかった。

 ばくん、と首を食いちぎられ、その体がどさりと地面に倒れる。
 あふれる血にまみれ、病狗は士郎の体をむさぼり食う。

「硬いし、うまくないな」
 残骸をあやかしの犬に与え、べろり、と口の周りを舐める。

「口直しが必要だ」
 病狗は小屋に向かって歩く。
 あの男の前であの娘を殺す、その楽しみはとっておきたい。が、足をかじるくらいなら問題ないだろう。

 小屋のドアを前足で開けると、ぷんと強いにおいが漂ってきて顔をしかめた。かすかに、士郎とは違ううまそうな血の臭いが混じっている。
「なんだこの臭いは」

 月明りの入った小屋の中には、割れた香水の瓶と切れた縄が転がっているのが見えた。

「逃げたのか……面白い」
 病狗はまた、ぺろりと口の周りをなめた。