婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 病狗の言葉で、あやかしの犬の輪の一角が開き、真世がよろめきながら走り出す。
「シロマツ、ゴー、ベース!」
「わん!」
 だだっと走り出したシロマツは一瞬で真世を追い抜いて走り去った。

「え!?」
 驚いた真世だが、かまわず走る。

 続こうとした燈子だが、真世が輪を抜けた直後、あやかしの犬にとびかかられて押し倒された。

「お前らはあの犬を追え! 殺せ!」
 数匹がシロマツを追う。

「反抗的だ。すぐに食ったほうがいいな」
 あやかしに押さえつけられた燈子の顔のすぐそばで、病狗が言う。臭い息がかかって、燈子は顔をそむけた。

「そうしたら目の前で食ってやる楽しみがなくなってしまいますよ」
 士郎がにやにやしながら言う。
「逃げられたら元も子もない」

「俺が縛っておきますよ。あいつの無力を思い知らせてやるんです」
「まったく下衆だな、お前は」
 くくく、と病狗は笑う。

「俺もあの男には恨みがあるんです。お高く留まっていっつも見下しやがって。犬のくせに」
「犬のくせに?」
 とたんに不機嫌な声が帰ってきて、士郎は慌てる。

「いえ、あの男のくせに、という意味ですよ。犬はすばらしい存在ですから」
 病狗は不機嫌な顔をしただけで答えなかった。

 逃げられなくなった燈子は彼らに誘導されておとなしく歩いた。
 隙を見て香水瓶を手にとる。