婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「こいつらを空き家に閉じ込めておけ」
「いえ、婚約者を閉じ込めて、ひとりは使いに出しましょう。ここにあいつをひとりで連れてくるために」

「どっちが婚約者だったかな」
 病狗がじっとりとした目を燈子と真世に送る。

「こいつが婚約者よ! 私が使いに行くわ、ちゃんとこいつを連れてきたんだし、約束を守る女よ!」
 よく言う、と燈子は言葉をなくした。今まで何度も約束を破って母の遺品を壊され写真を破かれ、捨てられた。

「身内を売るか。いかにも人間らしい」
 くくく、と山犬が笑う。

 燈子は真世を心底から軽蔑した。颯雅の婚約者を一時でも名乗ったくせに、まったく覚悟が足りない。

「お前はどう主張するんだ」
「婚約者は私よ」
 燈子は胸を張って答えた。

 嘘をついて逃れる手もある。真世を婚約者に仕立て上げることだってできる。だが、嫌だ。彼の婚約者である自負があるし、人としての矜持を捨てたくない。

「ほう、よく言った」
 にたにたと病狗は笑い、それから士郎を見る。

「お前は婚約者の見分けもつかんらしいな」
「そ、それは……姉妹で似ているので」
 ぼそぼそと士郎が口の中で言い訳をする。

「とにかく、あとはあの男ですよ」
 士郎はごまかすようにして促す。
 うむ、と頷いて病狗はぎょろりとした目を真世に向けた。