婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 気が付けば完全に犬のあやかしに囲まれている。彼らもまた、ぐるるる、と低い唸り声をあげている。
 燈子の脳裏にかつての光景がよみがえった。あやかしの犬に襲われる母、なにもできない自分。
 知らず、足ががくがくと震える。

「病狗様、こいつが颯雅様の婚約者です!」
 燈子は驚いて真世を見た。

「あなた……あやかしの仲間だったの?」
「違うわよ!」

「人間なんぞを仲間にするか」
 病狗がせせら笑い、隣の男の頬がぴくりと震えた。
 見覚えのある人物だった。図々しい記者。

「ふたりまとめて食ってやるわ」
「こいつを連れてきたら助けてくれるって言ったじゃない!」

「助けてやっただろうが。あのときはな!」
 病狗はけらけらと笑う。

 燈子はその間にも必死に逃げ道を算段していた。動けばすぐにあやかしがとびかかってきそうだ。劣勢をわかっているのか、シロマツは唸るばかりで動かない。

「約束が違う、ひどいわ!」
 真世がわーっと泣き出して、燈子は苦々しく思う。
 泣いてどうにかなる局面ではないのに、この人は。

 病狗はシロマツを警戒しているものの、優位がわかっているのか余裕を見せている。

「そうだ、病狗様」
 士郎が話しかけ、病狗の耳がぴくっと動いた。