婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「帰りましょう」
「ダメよ!」
 振り返った真世は暗い中でもわかるくらい眉を吊り上げ、青ざめていた。

「あと少しなんだから!」
 指さす先には古びた小屋があった。
「ばう! ばう!」
 シロマツが臨戦態勢で低く吠える。まるで、なにものかにそれ以上近づくなと言っているかのようだ。

「なによ、なんなの」
 真世はがたがたと震えだし、燈子は真世の手を取った。

「帰るわよ」
「ま、待ちなさいよ」
 真世は仕方ないふうを装って一緒に走り出す。

「待て」
 野太い男の声が響き、燈子は思わず足を止めた。

 真世はたたらを踏んで彼女の横で立ち止まる。
 シロマツはうなり声をあげ、いつでも攻撃できるように低く身構えている。眉間にしわを寄せて牙を見せ、いつもの人懐っこさはかけらもない。

「勘のいいやつだ」
「誰?」
 尋ねる燈子の前に現れたのはひとりの男。そして、犬。
 いや……。

 燈子は顔をひきつらせた。
 雲がさあっと晴れて、月あかりが木々の隙間から届く。
 一歩を踏み出した犬に、シロマツはさらにうなり声をあげた。

「かわいそうに、人間なんぞに使われて。俺が解放してやらねばな」
 木の陰から現れたのは、人の顔をした、病狗だった。