***
同じころ、大鶴家の付近にあやかしの犬が出現した。
「あやかしだ!」
「あっちにもいるぞ!」
兵士のほとんどはそちらに向かい、警備は手薄になる。
その隙に真世は家を出た。
「なんで私が」
泣きそうな顔で、しかし真世は歩く。
病狗とつるんでいると思われる記者から、なんども燈子を呼び出すようにせっつかれていた。
言うことを聞かなければ殺す、警察や軍に話しても殺すと脅されている。
軍ですら見つけられないあやかしなのだ。なにか不思議な力で話した瞬間に命を落とすことになったらと思うと怖くて誰にも話すことはできない。
実際、今も家の付近に犬のあやかしが出たのだ。打合せ通りに真世が抜けだすためのあやかしだが、見張っているぞ、と言われているように思えてならない。
「これも全部燈子のせいよ」
あの日、燈子がりんごの木を移植するなんて言わなければ。
そもそも燈子がいなければ。
憎しみをたぎらせて待ち合わせの場所に行くと、燈子が犬を連れて待っていた。
犬なんか連れて!
犬のあやかしが増えているさなかに連れてくる神経を疑う。さらには今からは忌々しい病狗の元にいくのだ。



