綾月家に帰った燈子は勝手に出ていったことをスエに叱られた。
心配してくれる彼女に心が痛んだが、表面上は謝った。
夜、功之輔とスエが寝静まったころを見計らい、燈子は出かける準備をした。
颯雅からもらった香水をしゅっとふりかけてから、香水瓶を着物の懐に忍ばせる。
そうすると、なんだか颯雅が守ってくれている気がしてきた。
燈子はリビングで寝ていたシロマツの首輪に紐をつける。
「わふ?」
シロマツが首をかしげるので、しーっと指を立てる。
「起こしてごめん。静かにしてね。一緒に来てほしいの。ひとりじゃ怖いから。お願い」
彼の紐を握り、そーっと忍び足で歩く。
静かに、静かに、そう思っているからか、いつもなら気にならない小さな軋み音すら耳に痛く、シロマツの爪が床に当たってかちゃかちゃと鳴る音が、妙に大きく響く。
もし見つかったらシロマツの散歩に、と言い訳する予定だが、そんな理由で納得してもらえるわけもない。見つかったらおしまいだ。
玄関を出て、最大限静かに扉を閉めて、ようやく息をすることができた。
「行くよ、シロマツ」
「わん!」
吠えるから、燈子は慌てて歩き出す。
彼は事態の深刻さをわかっていないのか、足取りが軽快だ。
「あやかしがいたらすぐに教えてね。見つかる前に逃げよう」
「わん!」
シロマツは元気に答えた。



