にぎやかな街中にある真新しいビルの前に立ち、燈子は名刺とビルを見比べる。
こんなところに来るのは初めてだ。スーツの男性が出てきてちらりと燈子に目をやってから歩き去っていく。
場違いにもほどがある、と燈子は恥ずかしくなった。
だが、ここでひるんで帰ってはなんの意味もない。
苦しげな颯雅を思いだし、燈子は背筋をしゃんと伸ばした。
狼に戻る手助けはできなくても、ほかの問題を解決することはできるかもしれない。いや、その努力をするべきだ。そう思ってここまで来たのだ。
平静を装って扉を開け、受付に女性がいるのを見てなんだか少しほっとした。
女性に名乗り、高宮廉次を訪ねてきたと告げると「少々お待ちください」と言って彼女は席を外す。
階段を上った彼女はしばらくして廉次と連れ立って現れた。
彼は今日もスーツをきっちと着こなし、髪も決まっている。フチなしの真鍮フレームの丸眼鏡姿がインテリな彼をより知的に見せていた。
廉次は燈子を見た瞬間、驚きを浮かべて足を速めた。受付の女性は静かに受付へと戻っていく。
「よくおいでくださいました。鷹宮です」
「大鶴燈子です」
燈子はぺこりと頭を下げる。
彼に案内され、近くのカフェに行った。
カララン、とベルの音とともに入った店内では蓄音機から流れるバイオリンの音色に包まれ、人々が喫茶を楽しんでいる。
二階のゆったりした席に案内され、一階の喧噪が遠のいた。



