婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 彼が狼に戻らなくなったと聞いたとき、最初に頭に浮かんだのは保身だった。彼は自身の存在すらあやうく感じて苦しんでいたのに。自分はなんて小さくて卑近なのだろう。

 さらには彼の苦衷(くちゅう)に寄り添わず、型通りの慰めをしようとした。不誠実ではないだろうか。

「だから帰りたくなかったんだ」
 ぼそっとこぼれた言葉は燈子の胸をえぐった。まるで自分が拒否されたような、そんな気がして。

「若様、準備が整いました」
 風呂敷包みを持ってスエが現れ、彼はなにごともなかったかのように立ち上がった。

「しばらくは帰らない」
「大変でございますね。お気をつけくださいませ」
 スエの答えに頷き、彼は歩き出す。

 慌てて追いかけてスエと一緒に颯雅を見送り、燈子は自室に戻った。
『しばらくは帰らない』と宣言された。帰れない、ではなかった。

 燈子はライティングデスクの椅子に座って額に手を当てた。
 颯雅を助けるために、なにかできないだろうか。
 考えても考えても答えは見つからない。

 そもそも学がない自分には解決策を見つけるなど無理かもしれない。
 なにか手がかりはないだろうか。

 そう思い、デスクに置いてあった本を開く。娯楽小説にちょうど良い知恵なんて書いてあるわけないのに。
 そう自嘲したとき、しおり代わりに挟んである名刺に気が付いて手に取った。

 鷹宮廉次。あきつしま新聞の、
「記者……」

 初めて会ったときのことを思い出す。
 図々しい士郎と違い、品よく礼儀正しかった。
 彼ならばもしかして。
 燈子はすぐさま出かける準備をして、スエに断ってから家を出た。