婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「念願の『人』になれたのですから……そのほうが嬉しいかと思います」
「お前にはわからない」
 即座の否定に、胸がまたずきっと痛んだ。

 なにか答えなくては。
 そう思って口を開くが、結局は何も言えなくて閉じる。
 人の幸不幸は他人には決められないと、先日思ったばかりだ。

「生きる土台が崩れたんだ。俺は狼だった。これまでも、これからもずっと狼として生きていくはずだった。急に人として生きるのだと言われて納得できるか? 喜べると思うか? 翼をもがれた鳥が地上で生きていけると思うのか!?」
「前は嬉しそうになさっておられて……」

「狼と人、自由に行き来できるなら好都合だ。だが、この先こんな不自由な姿で一生を送るなど……」
 彼は両手を見て、その手をぎゅっと握る。

「いっそ狼のままのほうがよかった」

 独白に、胸が締め付けられる。
 まったく燈子にはわからない。人の姿のなにが不自由なのか。狼の姿のほうが不自由としか思えない。なにも持てないし、周囲と言葉も通じない。

 なのに、狼のほうがよかったなんて。
 母を苦しめたと悩んだその姿のほうがよかったなんて。

「人の体のなんと重いことか。反応が遅く、嗅覚も聴覚も鈍い。牙もなく鋭い爪もない。人間はこんなに鈍く弱いのかと思い知らされる。これではあやかしが跋扈(ばっこ)するはずだ」
 彼は頭を抱えてうつむいた。

 燈子は目をそらした。その先にあるのは絨毯の規則的な模様。同じところをぐるぐるしている。最良の答えを探して堂々巡りをする自分とまるで同じだ。