婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「くうん」
 シロマツがとことこと歩いてきて、耳としっぽを垂れさせて自分を見上げる。
「あなたも心配してくれているのね」
 燈子が頭を撫でると、彼は嬉しそうにしっぽを振った。



 そわそわと日々を過ごしていると、予定外に昼間に颯雅が帰ってきた。
 颯雅はあいかわらずの人の姿だが、げっそりとやつれている。

「大丈夫ですか?」
「荷物をとりに来ただけだ、すぐに帰る」
 簡潔な返答に胸がつきんと痛んだ。自分がいるこの家は、彼の帰る場所ではないのだろうか。

 彼はスエに着替えなどの荷造りを頼み、リビングのソファにどかっと座った。
 燈子はお茶を入れて彼の前に置き、隣に座る。

「もう狼に戻られないのでしょうか」
「わからない」
 答える彼の声には憔悴がにじむ。
 燈子はどう話を続けたらいいのか、迷った。

「人は面倒だな。服だけでも何種類もあって、時と場合で着替えなければならない。狼のときにはなかったことだ」
 自嘲のように笑う彼に、燈子はうまく答えを返せなかった。

 それきり、沈黙が降りて気まずい時が流れる。
 やがて、口を開いたのは彼だった。

「狼に戻れないとはな」
 彼は虚ろが見えるかのように虚空を見つめている。
「戻りたいのですか?」
 あれだけ苦しんでいたようなのに、戻りたいなんてことがあるのだろうか。