婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「ほう、こんなところで奇遇だな、狼のまがいもの」
「病狗か」

 今までなんども遭遇した。いつもあやかしの犬を盾にして逃げる卑怯者。
 あやかしたちから目を離さず、足元に転がる棒切れを手に取った。
 狼に戻るようにと精神を集中する時間などなさそうだ。

「病狗、覚悟しろ」
「棒切れだけとは、なめられたものだな」
 病狗がせせら笑う。

「お前にはこれで充分だ」
「ならばやってみろ。行け!」
 あやかしの犬たちが一斉に颯雅にとびかかる。

 颯雅は棒をふるってあるいは殴り、あるいはかわしてあやかしたちと戦う。
 病狗は怪訝な顔をしたあと、口をにたりと吊り上げた。

「お前、狼に戻れないのか?」
「違う!」
 即答は、むしろ明確な肯定だった。

「愉快だ」
 ははは、と病狗は笑う。

「今日はこれで帰るが、お前の婚約者は必ず殺す。楽しみにしていろ」
「なんだと!?」
 追おうとする颯雅だが、あやかしの犬たちに阻まれる。

「颯雅様!」
 真世を置いていくこともできず、颯雅はまんまと足止めをくらう。あやかしの犬は思ったより強く、殴っても殴っても立ち向かってくる。あやかしになりたての犬がどれほど弱かったことか。

 すぐに息がきれて汗があふれ、人の姿の体力のなさに愕然とした。
 病狗は笑い声を残し、どこへともなく消えていった。