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真世はぷりぷりと怒りながら歩いていた。
家を出るときには走っていたので、息が切れて苦しい。
燈子さえいなければ。
真世は肩で息をしながら呪う。
すべては燈子のせいだ。あいつがいるからいつも苦しい目に遭う。
小さいころ、まだ母が結婚していなかったころには周囲に妾の子としていじめられた。
麻子からは本妻と娘がいるせいで自分たちが不遇なんだと言われた。
父も、妻さえいなければ自分たちは本当の家族になれるのに、と嘆いていた。
だから不幸の原因である本妻とその娘を恨んでいた。
いざ本妻が死に、やっと家族で暮らせると思ったら邪魔なあいつが残っていた。
その上、結局は妾の子と周囲からの讒言が耳に障る。
違うのに。あいつらがいたせいで正当な場所にいられなかっただけなのに。
さんざんだ。自分ばかりが割を食って、燈子ばかりが得をしている。
いつもあいつは溜飲の源だ。最初は笑ってばかりで不気味で、そのうち無表情でかわすようになったのが生意気だ。不幸そうな顔をしていれば多少は気が晴れるのに。
目の前から姿を消しても、あいつが幸せなら自分は幸せになんてなれやしない。
公爵子息夫人になれば立場を利用して真世たちを迫害するに違いなく、なんとしても颯雅との結婚は阻止しなければならない。できれば自分が公爵夫人になりたいものだ。
新聞では自分が婚約者として載っていた。記者が取材に来ても肯定も否定もせず対応しているから、ますます自分が婚約者だと思われているようだ。
それを利用できないかと思うのだが、颯雅のあの調子では新聞の報道を理由に自分に乗り換えるなんてなさそうだ。せっかく両親は協力的で真実を黙ってくれているのに。
やはり阻止では足りない。存在を根本から消さなければ。
だけどどうやって。
自分の手を汚すのだけはしたくない。
むしろあやかしに狙われて自分の命のほうが危うい。



