婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「次女殿から庭のりんごの木を切ると連絡をもらったが、当家に移植したく思っている」
「はあ、わかりました」
 気の抜けた声で正雄が即答すると、鬼の形相で真世がその脇をつつく。意図をつかめない正雄が顔を向けると、彼女は不機嫌に口を開く。

「あの木は我が家のものなのに!」
「そうですよ、それを勝手に」
 麻子が真世に賛同する。

「あれは燈子の母が植えたもの。ならば燈子が持つべきだと考える。費用はこちらで持つ」
「あの女の遺物だったなんて……」
 麻子は着物のたもとで口元を隠し、言葉の先も隠した。

「どうぞお持ちくださいませ。ないほうがせいせいするわ」
「あれは我が家のもの、いらないなら切るべきだわ!」
 真世が抗議するが、麻子は嫌悪で顔をそむけ、小声で真世に告げる。

「手間もお金もかかること、やっていただけるならそんな楽なことはないわ」
 言われた真世は憎悪を隠さず燈子を睨み、燈子は目をそらした。

 内心は喜びに踊っている。
 正雄も麻子も賛成している以上、真世のわがままは通らない。女中たちの雇主は真世ではなく正雄なので、いくら真世がやれといってもさすがにそこまではやらないし、やれない。労力を惜しむ真世が自分で切るわけもない。

 真世は眉間にしわを寄せ、すくっと立ち上がる。
「なんで私の意見は聞いてくれないわけ!?」

「ならば聞く。お前は燈子の意見を考慮したことがあるか」
 颯雅が即座に言い返す。

「ひどい!」
 真世は顔を覆って部屋を飛び出した。