婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「お前はもっとわがままを言っていい。前にも言った」
「そ、そんなこと……」
「なにがわがままかもわかっていないのか。ずっと我慢してきて、つらかったな」

 言われた燈子はさらに胸が痛くなった。
 こんなふうに甘やかされたら、もっと甘えたくなってしまう。

 そうしたらきっと、彼の心が欲しくなってしまう。彼は人の姿になるために自分が必要なだけで、心が欲しいなんて思ったらつらくなるだけだ。

「やはり一緒に行くのはよくないか。辛酸を舐めた家だろう」
 表情から誤解されたのか、颯雅が気遣うように言う。

「いえ、行きます」
 颯雅に頼りきりなのはきっとよくない。自分に関わることなのだから。
「思い出の木は守るからな」
 優しい言葉に胸がいっぱいになって、このあとの食事は味がわからなくなってしまった。



 翌日、彼は人の姿でスーツを着て燈子と一緒に大鶴の家に向かう。
 日曜日だから正雄は家にいるはずであり、果たして彼は在宅だった。

 通された座敷で上座に案内され、燈子は戸惑った。
 颯雅は泰然としているが、上座はこれまで自分が座る場所ではなかった。小さいころにうっかりそこに座り、真世と麻子から激しい罵倒と暴力が降ってきたことを覚えている。

 落ち着かないまま待っていると、ぱたぱたと軽い足音がして障子が開く。
「颯雅様! 私に会いに来てくださったの? スーツもよくお似合いだわ!」
 現れた真世は嬉しそうに颯雅に話しかける。燈子のことは視界にまったく入っていないようだった。

「お前に用はない」
 冷たく返され、真世は一瞬鼻白んだものの、すぐに笑顔を取り繕う。
 遅れて現れた正雄と麻子が席に着くと、颯雅は切り出した。