婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

 子供が握り飯を手放せばよかっただけだ。強欲な子供のせいで。理解のない親のせいで。
 みんな幸せなのに、俺だけが不幸だ。

 警察がじりじりと距離をつめ、彼はその分だけ下がる。
 ふいを突いて走り抜けよう、と足に力をこめたとき。
 足元がガラッと崩れた。

「うわあああ……!」
 崖下へとまっしぐらに落ちて風を感じた。暗い空と崩れた崖のふち、覗き込む警察官の姿が見えた。

 俺はなんて不幸なんだ。
 そう思ったところでふつっと意識が途切れた。

 次に気がついたときは下半身を流れに洗われ、川岸にうつぶせに倒れていた。
 周囲にはごつごつした大きな岩があり、その先には木々がうっそうと茂っている。警察もここには来ていないようだ。

 彼は川から上がり、そうして、体の違和に気づく。
 視点が低い。立ち上がっても大人の視点には遠く及ばない。
 手の感覚がおかしい。
 そう思って確認し、ひっと悲鳴を上げた。

 まるで犬だ。
 前足に後ろ足、しっぽもある。
 岩のへこみにある水の溜まりに自身を映し、呆然とした。

「どういうことだ……」
 顔は人のまま、体はずんぐりした犬と化していた。

「俺はなんて不幸なんだ」
 なんで自分ばかりがこんな目に合うんだ。
 しくしくと涙をこぼすが、やがて腹が鳴って彼は立ち上がった。