婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「俺の大事な家族を殺しやがって!」
「犬ごときでなんだ! こっちは子供が殺されそうだったんだ!」

「ちょっと噛んだくらいでなんだ!」
 平行線の口論は激しくなり、彼が殴った拍子に父親が倒れ、動かなくなった。
 母親と子供が悲鳴を上げて警察を呼ぶと騒ぐので、ふたりとも絞め殺した。

 めんどくさいことになった。このままでは自分は人殺しとして捕まってしまう。
 だからその家の包丁でめった刺しにして父親に包丁をにぎらせ、心中に見せかけた。

 なのに、警察にはすぐに自分のせいだとばれて追われた。家に入って行くところを見られており、殴った痕があったことなどが原因らしい。

「俺は被害者なのに」
 山の中を逃げながら、彼は世の中を呪った。
「大事な家族を殺された上、人殺しをするはめになって追われている。なんて不幸なんだ!」

 警察は犬も使って追ってくる。
 あんなやつらが犬を使うなんて!
 怒りがわいてくるが、反撃する力はない。警察は拳銃も持っていて、かなうはずがない。

「俺に力があればあんなやつら……!」
 やたらめったら走り回り、ついには崖に追い詰められた。はるかかなた下には急流がしぶきをあげている。
 切り立った崖の端に立つと、警察と警察犬に囲まれる。

「もうあきらめろ!」
「俺は被害者だ!」
 警察の呼びかけに反論すると。

「まったく反省の色がない!」
 警察官のひとりが憤るのを見て、彼の中に憎しみがたぎる。