婚約者は狼神!? 帝国の守護神の通訳として雇われた私、なぜか溺愛されてます!

「すみません、ありがとうございました」
 燈子はお礼を言って、車から降りる。

「ダメだなあ、迷惑かけてばっかりで」
 せめて家事をさせてもらえたらと思うのに、それもない。

 とぼとぼとリビングに戻ると、待ってましたとばかりにスエが来た。
「若奥様。ご実家からお手紙が届いております」

 いったいなんの手紙だろう。
 警戒しながら受け取った。差出人は大鶴真世となっている。

「よくない知らせでしたら、若様に相談なさるのが良いかと思います」
 言い添えたスエが部屋を出ていくと、すぐに燈子は封を切った。

『あんたの母親の形見、また出てきたから。さっさと取りに来なさいよ。来ないとりんごの木を切るわよ』
 またこれだ。
 燈子はいらついて険しい目で手紙を見た。

「どこまでお母さまを利用するの。どこまで傷つければ気が済むの」
 母への気持ちを利用して踏みつける真世。

 (かん)の虫が暴れるたびにこんな手紙をよこされてはたまらない。
 真世に振り回されるのはもうやめにしたい。どうせ形見なんてまた嘘だ。木を切るのだって、嘘かもしれない。

 せっかく颯雅のおかげであの環境から逃れられたのだ。
 木が切られるのを見過ごすのは母を見捨てるようで忍びない。だが、木は母そのものではない。母は自分の中にいると颯雅が教えてくれたし、幸せを願ってくれたのだ。

 燈子はその手紙を破り、くず入れに捨てた。
 まるで母を捨てたみたいだ。
 燈子の胸にぎりぎりとした痛みが生まれ、いつまでも消えなかった。