赤門同好会!

 七月某日。
 来月頭に控えた研究の中間発表に向けて、僕と吉峰は進捗の整理と資料作成に追われていた。
 
「門田、ここに載せる画像どこにまとめた?」
 
「共有フォルダに全部入ってるけど。てかさ、やっぱり研究背景もう少し詳しく書こうよ」
 
「結構しっかり書いてるだろ。発表時間足りなくなるぞ」
 
「じゃあ教授に色々言われたらお前が答えてくれよ」
 
「そこは連帯責任だな」
 
 僕らは学部生のときもこうして二人で研究をしていたのだが、院に進んでからも研究テーマを引き継ぎ、気づけばずっと一緒に過ごしている。
 
「あーダメだ。吉峰、一旦休憩しよう」
 
「まあそうだな。さすがに疲れた」
 
「てか今何時……えっ、待ってもう十八時!?」
 
「……おい、あいつらの出る番組って確か――」
 
「よし、帰るぞ吉峰。今ならまだ間に合う」
 
 僕らは荷物をまとめて大学を出ると、急いで互いの部屋があるマンションへと帰った。
 どうしてかって?
 それは共通の友達が、それも二人も、とある音楽番組に出演するからだ。
 
「僕の部屋で見る?」
 
「うん。酒持っていく」
 
「お前すぐ酔うからあんまり飲むなよ……」
 
「人のこと言えないだろ、うるさいぞ」
 
 まもなく、吉峰は宣言通りお酒を何本か持って僕の部屋にやってきた。
 僕は僕で、昨夜余った素麺とレンチンの唐揚げ、そして高速で切ったきゅうりとトマトを食卓に置いた。
 
「門田、最近素麺ばっか食ってんな」
 
「文句あるなら食うなよ」
 
「いただきます」
 
 素麺は両親が実家から送ってきてくれたもの。
 一人じゃ到底食べきれないから、吉峰にもお裾分けしている。
 と、そんな話をしていたら……!
 
「お、始まった!」
 
「アスリートが愛する音楽スペシャル……これ二時間あるのか、あいつらはいつ出るんだ?」
 
「さあ……」
 
 ソワソワしながらその出番を待っていたが、結局、夕食を食べ終える頃になっても見慣れた顔は出てこない。
 
「そろそろ出るかな」
 
 出てくれないと、ほろ酔いの吉峰が寝落ちしてしまう。
 少し焦り始めたそのとき、司会のアナウンサーが「続いてのアーティストは……」と番組を進行する。
 
「っ、吉峰! ついに来たぞ!」
 
「んぅ、あ、ほんとだ」
 
 アナウンサーに紹介されたのは、ここ数年で大躍進を遂げた人気バンド・リュウノヒゲ。
 そのボーカルを務めるのは、リュウこと赤城龍太朗だ。
 
 龍は東大にこそ入れなかったものの、受験での成果を親に認められ、夢だった音楽活動の第一歩として一年のときサークルでバンドを結成。
 そのメンバーとかなり気が合ったらしく、積極的に曲を作ったりライブをやったりして、地道にファンをつけていった。
 そして三年の夏頃だったか、とあるライブの動画がSNSでバズり、それを見たレコード会社の人から声がかかったのだ。
 
 龍は授業と音楽活動を頑張って両立し、昨年三月、無事に早稲田大学を卒業した。
 今ではアニメの主題歌も担当するなど、すっかり有名なアーティストになり、音楽で食べているから本当にすごいと思う。
 
「あ、駿太のインタビューだ」
 
 さて、なぜ駿太までテレビに映っているのかと言うと……。
 今日見ている番組は、話題のアスリートたちにインタビューをして好きな曲やアーティストを紹介してもらう、というもの。
 今や日本代表にも選ばれるなど、陸上選手として活躍している我らの友・桜林駿太。
 彼もインタビューを受けたアスリートの一人なのだ。
 
 テレビの中で駿太が話す。
 ボーカルのリュウとは、幼い頃からの親友だと。
 過酷な練習も大事な大会も、このバンドがいるから乗り越えられると。
 そして、今回リクエストしたい特に好きな曲は――。
 
「やっぱりこの曲か」
 
 吉峰も予想通り、といった様子だ。
 
「初めて聴いたときが懐かしいな」
 
 画面はスタジオに切り替わり、イントロが流れ始める。
 リュウは今夜も眩しい笑顔でステージに立っている。
 そして、大空を泳ぐ龍のようにのびのびと奏でるのだ。
 あの夏、僕らだけに披露した歌を。