耳鳴(みみな)りがする。 遠(とお)くで誰かが呼(よ)んでいる気がした。 けれど、その名前が私(わたし)のものだったのか、もう分からない。 胸の奥(おく)が微(かす)かに何(なに)かを感じる 痛(いた)い——たぶん、これが“痛(いた)み”というもの。 何(なに)かを好きだった気がする。 誰か、ではない。何(なに)か、形(かたち)のないものを。 温(ぬく)もりのような、声(こえ)のような、夢(ゆめ)の続(つづ)きのようなものを。 光(ひかり)が滲(にじ)み、世界(せかい)がほどけていく。 消(きえ)えていく途中(とちゅう)で、私(わたし)は微笑(ほほえ)んだ気がした。 ……もしそれが愛(アイ)と呼(よ)ばれるものなら、 どうかもう一度(いちど)、あの“何(なに)か”に触(ふ)れられますように。