「ハアハア、風歌先輩!」
私は息を切らせながら、グラウンドで待っている風歌先輩の元へ行った。
風歌先輩は、一足先に待ち合わせの場所に来ていた。
「待たせてしまって、すみません」
「良いのよ、全然」
先輩はニッコリと微笑んだ。
が、少し顔を曇らせた。
「むしろ、謝らなければいけないのは、私の方」
「え…?」
どういう事だろう?
「あの、先輩、私に話したい事って…?」
「ちょっと長くなってしまうけど、良い?」
「?…はい」
「ありがとう」
先輩は大きく深呼吸をした。
私は、静かに先輩の言葉に耳を傾ける事にした。
「あなたはもう知ってるかもしれないけど、私は、……石田君の事が好きなの」
…やっぱり、そうなんだ。
「でもね。石田君からしたら、私はただの幼馴染でしかないの」
「え…石田先輩と風歌先輩は、幼馴染なんですか?」
私は思わず口を挟んでしまった。
「そうよ。あれは……十年ぐらい前だったかしら」
先輩は何かを懐かしむように、私から目を逸らして、遠くを見つめた。
「私、あの日石田君と、学校のクラブ活動から一緒に帰っていたのよ。電車で帰ろうとしたんだけど、うっかりパスモを何処かに落としてしまって。探すのに時間がかかるかもしれないから、先に帰ってて欲しいって言って、石田君と別れたの。でも中々見つからなくて、諦めて両親に迎えにきてもらう事にしたの。でも、急に救急車のサイレンの音が聞こえてきて、その時はまだ、何かあったのかなって思ったぐらいで、そんなに気にしていなかった。でも、迎えにきた両親が、石田君がさっきの救急車に乗って運ばれたって言ったの。もう、心配で心配で、仕方なかった。それで、急いで運ばれた病院に向かったんだけど、彼、思ったより大丈夫で、倒れた原因は勉強とクラブ活動、習い事とかのやりすぎ。つまり、過労ね。だけど、私はおかしな事に気付いた。あの時、ホームには誰もいなかったらしい。そこで本人に、誰が助けてくれたか、覚えてる?って聞いたら、一つか二つ下の、女の子って答えたのよ」
(え……)
それって、まさか。
先輩は、逸らしていた目を、こちらに戻した。
「そう、その女の子とは、珠夜ちゃん、あなたの事よ」
私は一瞬、時が止まった気がした。
あの男の子が、まさか石田先輩だったなんて。
私は、衝撃すぎて言葉を失った。
そんな中でも、先輩は私にかまわず喋り続ける。
「まあ、私が石田君を助けたのがあなただって知ったのは、偶々両親の車と、あなたのご両親の車、そして救急車が同時に到着して、その時あなたのご両親の車に、あなたが乗っているのを見かけたからだけど。あ、そうそう、石田君は、意識が途切れてしまう前に、救急車を呼んでくれた女の子に、『ありがとう』って、お礼を言ったらしいわ」
そっか、あれは『ありがとう』って言ってたんだ。
ずっと私の心の中に残っていた謎が、今やっと解けた気がした。
だけど、まだ何か、頭に引っかかっている気がする。
「それと、私が本当に話したかったのは、ここから。私が、まだ中二の頃だったかしら。あの時、剣道場であなたを助けた事だけど…」
「あ、そうだ、まだお礼を言っていませんでした、あの時は本当にありが…」
「待って、違うの」
先輩は、急に私の言葉を遮った。
私が、なんで?と言うような顔をしていると、その言葉が伝わったかのように、先輩は喋り始めた。
「あの時、あなたを助けたのは、実は私じゃないの」
「……へ?」
さっきと同じくらいの衝撃の真実が、先輩の口から明かされた。
「あの時、本当は石田君が見つけて、保健室まであなたを運んだのよ。その時、私はあなたが怖くなったの」
「怖い……?なぜですか?」
「あなたが、石田君の事を好きになっしまうかもしれないのが、怖くなったのよ」
「で、でも、石田先輩が好きな子なんて、他にも沢山…」
「あなたが、石田君を助けた本人だからよ」
「?…どういう事ですか?」
「石田君は、体調が完全に良くなった時、自分を助けてくれた人に告白するって言ったのよ」
「え…」
「勿論、まだ幼かったし、冗談で言ったのかもしれないけど、もし現実になってしまったらって思うと、怖かった。この話を石田君が知ってしまったら……、って思うと。簡単に言えば、嫉妬ね。石田君が助けたのを知ったら、また女の子達が集まってきてもっと大変な事になる。これを理由にして、石田君に頼んで、私が助けた事にしたのよ。もっとも、この作戦は結局あまり効果が出なかったけど。……本当に、ごめんなさい。私のせいで、実るはずだったあなたの恋を、実らなくしてしまって。最後に、あなたに言う事が出来て、本当に良かったわ」
私はある事を思い出し、恐る恐る聞いてみた。
「じゃあ、今日私と石田先輩が倒れていた時にこっちを恨めしげに見ていたのは……」
「それも、嫉妬ね」
先輩は静かに答えた。
私は、一瞬絶望感に包まれた。
あの時、勇気を出して石田先輩に告白しておけば。
風歌先輩が、余計な事さえしなければ。
だけど、どんなに後悔しても、もう遅い。
それに、風歌先輩は、ちゃんと反省して、最後の最後に、私に話してくれた。
勇気を出して。
なら、私もちゃんと自分の気持ちを言葉で表そう。
私は、大きく深呼吸をした。
「……風歌先輩」
「……怒って良いわよ、珠夜ちゃ」
「そうではありません」
私は、キッパリと言った。
「確かに、先輩の行いには、怒っています。……ですが、恨んではいません」
先輩はハッと目を見開いた。
「どんなに後悔しても、過去を変える事は出来ません。大切なのは、過去の過ちを無かった事にするのではなく、しっかり反省して、次に活かす事です。先輩は、しっかりそれを反省して、今それを活かそうとしています。だから、私は先輩の事を許します」
暫くの間、お互いに沈黙が続いたが、先輩がフッと口元を緩めた。
「珠夜ちゃんは、優しいのね。石田君は、そんなところに惹かれたのかな。…ありがとう」
先輩の頬を、一粒の涙がつたった。
その涙は、夕日の光を浴びて、光り輝いていた。
まるで、過去の過ちを乗り越えて、これからの人生に一歩踏み出そうとしている先輩の未来を、明るく照らすかのように。
私は息を切らせながら、グラウンドで待っている風歌先輩の元へ行った。
風歌先輩は、一足先に待ち合わせの場所に来ていた。
「待たせてしまって、すみません」
「良いのよ、全然」
先輩はニッコリと微笑んだ。
が、少し顔を曇らせた。
「むしろ、謝らなければいけないのは、私の方」
「え…?」
どういう事だろう?
「あの、先輩、私に話したい事って…?」
「ちょっと長くなってしまうけど、良い?」
「?…はい」
「ありがとう」
先輩は大きく深呼吸をした。
私は、静かに先輩の言葉に耳を傾ける事にした。
「あなたはもう知ってるかもしれないけど、私は、……石田君の事が好きなの」
…やっぱり、そうなんだ。
「でもね。石田君からしたら、私はただの幼馴染でしかないの」
「え…石田先輩と風歌先輩は、幼馴染なんですか?」
私は思わず口を挟んでしまった。
「そうよ。あれは……十年ぐらい前だったかしら」
先輩は何かを懐かしむように、私から目を逸らして、遠くを見つめた。
「私、あの日石田君と、学校のクラブ活動から一緒に帰っていたのよ。電車で帰ろうとしたんだけど、うっかりパスモを何処かに落としてしまって。探すのに時間がかかるかもしれないから、先に帰ってて欲しいって言って、石田君と別れたの。でも中々見つからなくて、諦めて両親に迎えにきてもらう事にしたの。でも、急に救急車のサイレンの音が聞こえてきて、その時はまだ、何かあったのかなって思ったぐらいで、そんなに気にしていなかった。でも、迎えにきた両親が、石田君がさっきの救急車に乗って運ばれたって言ったの。もう、心配で心配で、仕方なかった。それで、急いで運ばれた病院に向かったんだけど、彼、思ったより大丈夫で、倒れた原因は勉強とクラブ活動、習い事とかのやりすぎ。つまり、過労ね。だけど、私はおかしな事に気付いた。あの時、ホームには誰もいなかったらしい。そこで本人に、誰が助けてくれたか、覚えてる?って聞いたら、一つか二つ下の、女の子って答えたのよ」
(え……)
それって、まさか。
先輩は、逸らしていた目を、こちらに戻した。
「そう、その女の子とは、珠夜ちゃん、あなたの事よ」
私は一瞬、時が止まった気がした。
あの男の子が、まさか石田先輩だったなんて。
私は、衝撃すぎて言葉を失った。
そんな中でも、先輩は私にかまわず喋り続ける。
「まあ、私が石田君を助けたのがあなただって知ったのは、偶々両親の車と、あなたのご両親の車、そして救急車が同時に到着して、その時あなたのご両親の車に、あなたが乗っているのを見かけたからだけど。あ、そうそう、石田君は、意識が途切れてしまう前に、救急車を呼んでくれた女の子に、『ありがとう』って、お礼を言ったらしいわ」
そっか、あれは『ありがとう』って言ってたんだ。
ずっと私の心の中に残っていた謎が、今やっと解けた気がした。
だけど、まだ何か、頭に引っかかっている気がする。
「それと、私が本当に話したかったのは、ここから。私が、まだ中二の頃だったかしら。あの時、剣道場であなたを助けた事だけど…」
「あ、そうだ、まだお礼を言っていませんでした、あの時は本当にありが…」
「待って、違うの」
先輩は、急に私の言葉を遮った。
私が、なんで?と言うような顔をしていると、その言葉が伝わったかのように、先輩は喋り始めた。
「あの時、あなたを助けたのは、実は私じゃないの」
「……へ?」
さっきと同じくらいの衝撃の真実が、先輩の口から明かされた。
「あの時、本当は石田君が見つけて、保健室まであなたを運んだのよ。その時、私はあなたが怖くなったの」
「怖い……?なぜですか?」
「あなたが、石田君の事を好きになっしまうかもしれないのが、怖くなったのよ」
「で、でも、石田先輩が好きな子なんて、他にも沢山…」
「あなたが、石田君を助けた本人だからよ」
「?…どういう事ですか?」
「石田君は、体調が完全に良くなった時、自分を助けてくれた人に告白するって言ったのよ」
「え…」
「勿論、まだ幼かったし、冗談で言ったのかもしれないけど、もし現実になってしまったらって思うと、怖かった。この話を石田君が知ってしまったら……、って思うと。簡単に言えば、嫉妬ね。石田君が助けたのを知ったら、また女の子達が集まってきてもっと大変な事になる。これを理由にして、石田君に頼んで、私が助けた事にしたのよ。もっとも、この作戦は結局あまり効果が出なかったけど。……本当に、ごめんなさい。私のせいで、実るはずだったあなたの恋を、実らなくしてしまって。最後に、あなたに言う事が出来て、本当に良かったわ」
私はある事を思い出し、恐る恐る聞いてみた。
「じゃあ、今日私と石田先輩が倒れていた時にこっちを恨めしげに見ていたのは……」
「それも、嫉妬ね」
先輩は静かに答えた。
私は、一瞬絶望感に包まれた。
あの時、勇気を出して石田先輩に告白しておけば。
風歌先輩が、余計な事さえしなければ。
だけど、どんなに後悔しても、もう遅い。
それに、風歌先輩は、ちゃんと反省して、最後の最後に、私に話してくれた。
勇気を出して。
なら、私もちゃんと自分の気持ちを言葉で表そう。
私は、大きく深呼吸をした。
「……風歌先輩」
「……怒って良いわよ、珠夜ちゃ」
「そうではありません」
私は、キッパリと言った。
「確かに、先輩の行いには、怒っています。……ですが、恨んではいません」
先輩はハッと目を見開いた。
「どんなに後悔しても、過去を変える事は出来ません。大切なのは、過去の過ちを無かった事にするのではなく、しっかり反省して、次に活かす事です。先輩は、しっかりそれを反省して、今それを活かそうとしています。だから、私は先輩の事を許します」
暫くの間、お互いに沈黙が続いたが、先輩がフッと口元を緩めた。
「珠夜ちゃんは、優しいのね。石田君は、そんなところに惹かれたのかな。…ありがとう」
先輩の頬を、一粒の涙がつたった。
その涙は、夕日の光を浴びて、光り輝いていた。
まるで、過去の過ちを乗り越えて、これからの人生に一歩踏み出そうとしている先輩の未来を、明るく照らすかのように。
