とまぁ、思い出話はこの辺にしておいて、石田先輩はまだちょっとドキドキして心臓がもたなそうだから、先に風歌先輩にお土産を渡そうかな。
「秋菜ちゃん」
「ん?」
「私、これから風歌先輩にお土産渡してくるから、ここで待っててくれない?」
「良いけど、あの先輩にわざわざお土産渡さなくてもよくな〜い?むしろ私に渡してよ〜」
「あ、秋菜ちゃんの分はちゃんとあるから、後で渡すね」
「そういう問題じゃないんだけど……まぁいいや、珠夜がそういうんなら、しょうがないし。いってらっしゃい」
「うん、ありがとう、行ってくるね〜!」
私はそう言って、秋菜ちゃんから離れ、風歌先輩の元へ走っていった。
だけど、風歌先輩は人気者だから、周りに人がいすぎて中々渡す事が出来ない。
しかも、私は身長が高い方ではない。
ぴょんぴょん跳ねたり、何回も背伸びをして風歌先輩を探していると、なんと先輩の方が先に私に気付いてくれた上に、こっちに来てくれた。
先輩は私の目の前まで来ると、ニッコリと優しく微笑んだ。
「珠夜ちゃん久しぶり。元気?」
「はい!物凄く元気です!」
思わず大きな声で言ってしまい、さらに声が裏返ってしまった。ヤバイ、変人って思われたかな、と思ったのも束の間、先輩はクスクスと笑い始めた。
「そう。なら良かった」
(よし、今だ!)
私は後ろに隠していたお土産の入った袋を、先輩にサッと渡した。
「あの、これ、沖縄に行った時のお土産で、その……どうぞ!」
そう叫んだ後チラッと先輩の顔を見た。
先輩は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐにあの優しい微笑みに戻った。
「わざわざありがとう。でも私、沖縄嫌いなの」
「え」
「なーんて、冗談よ、冗談。本当は沖縄大好き!」
「なんだ〜、脅かさないで下さいよ〜!」
なんて、口では笑っておいたが、内心かなり焦った。
「ウフフ、ごめんね。あ、これ本当にありがとう。大切に保管するね」
「あ、ありがとうございます!」
良かった、先輩に気に入って貰えて。
私がお土産を渡せた事が嬉しすぎて思わずニヤニヤ笑っていると、先輩は何かを思い出したような顔をした。
「そうだ、珠夜ちゃんに話したい事が…」
そう言い掛けた瞬間、ドドドドドと先輩の周りに人が集まってきた。
「先輩、私からも渡したい物がありまーす‼︎」
「僕も!」
「私も!」
「先輩こっちー‼︎」
…何を話したかったんだろう?
まあ波が去った後で聞けば良いか、と秋菜ちゃんの所に戻ろうとしたその時、ふと野球部の子達が目に入った。
石田先輩や、風歌先輩の周りに集まっている人だかりより少し離れた所で、野球部の4人はキャッチボールをして遊んでいた。
まぁまぁ離れているし、こっちにボールが来る心配もないだろうと、そう思った矢先ーー。
高3の先輩が、高1の後輩に向かって、ふざけてやったのか、思いっきり強い球を投げた。
高1の子は、ビックリして避けてしまった。
容赦なさすぎるでしょ、と思いながら、ボールを目で追っている時に気付いた。
このままだと、ボールが石田先輩の頭……しかも後頭部に当たってしまう!
今の球を投げた先輩は、かなり有名で、この学校で1番速くて強い球を投げられると言われている、小泉先輩なのだ。
球が当たってしまった十数人の内、数人は腕や足が骨折してしまったという。
小泉先輩曰く、わざとやっているわけではないらしいが……。
それにしても、周りの人に当たり過ぎだろう!とツッコミたい所だが、今はそれどころしゃない。
だけど、その子達は腕や足だったから、まだ良かったわけで、石田先輩の場合は、頭で、もしかしたら……後頭部に、当たってしまうかもしれない……!
高校生活、最後の最後に、怪我なんかさせたくない!
私は、今までにない程の速さで、石田先輩の元へ走っていった。
こういう時に限って、先輩の後ろには誰もいないし、みんなが先輩の事しかみていないので、誰も気付かない。
人だかりが出来ているのは、丁度先輩から見て前と横なのだ。
先輩は背が高いから、私がジャンプして先輩の体を押し倒さないと、頭を守る事が出来ない。
私は、身長が低い代わりにジャンプ力はあるから、これに頼るしかない。
一瞬先輩に、「避けて」と言おうとしたが、あの球の速さからして、恐らくそんな時間はない。
一か八か。
私は思いっきりジャンプして、先輩の体を押し倒した。
先輩が無事なのを確認して、ホッとしたのも束の間、今度は私が危ない状態になった。
このままだと、先輩と同じ後頭部ではないが、確実に私の側頭部…こめかみに当たるだろう。
私は目をぎゅっとつむった。
避けるのは無理だと諦めかけた、その時。
いきなり誰かに手首を思いっきり引っ張られ、私の頭の後ろでブチっという嫌な音がした後、そのままドサっと地面に倒れ込んだ。
だが、地面に倒れ込んだ割には、体が全く痛くない。
「あっぶねえ……」
頭上から石田先輩の声が聞こえた。
ゆっくり目を開けて起き上がると、どうやら私はうつ伏せになっていたらしく、誰かを下敷きにしていた。
その時、私はとんでもない事実に気付いてしまった。
なんと、あの時私の手首を引っ張ってピンチから助けてくれたのは、石田先輩だったのだ。
いやそれよりも、石田先輩が、まるで私を抱きしめるようにして倒れていたという真実に驚いた。
しかも今は、少女漫画によく出てくる描写のように、「カップルが倒れ、暫くして、相手と自然に目が合ってしまう」みたいな感じになっているのだ!
恥ずかしすぎて顔を真っ赤にしていると、先輩が私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
そう言われた瞬間、私は物凄い速さで飛び退いて、立ち上がった。
「は、はい!だだだ大丈夫です!」
本当は色々な意味で、全然大丈夫じゃない。
何となく、周りの女子達の目が物凄く殺気立ってる気がする。
しかも、先輩の顔が近づいた瞬間、ドキドキしすぎて何回も噛んでしまった。
正直言って、めちゃくちゃ恥ずかしい。
先輩は何回も噛んだ私を見てクスッと笑うと、ゆっくり立ち上がった。
「あ、あの、助けてくれて、あ、ありがとうございました!」
私は腰が九十度も曲がるくらい、深くお辞儀をして、お礼を言った。
「いや、こっちこそ、助けてくれてありがとな。あとちょっとでヤバイ事になってただろうし……あれ?」
すると、石田先輩が私に何かを言おうとしたが、その時、あの小泉先輩が、こっちに向かって走ってきた。
小泉先輩は、ハアハアと息を切らしている。
「すいません、思いっきり球投げちゃって……あの、わざとではなかったんですけど、大丈夫ですか?」
あれ……もしかして、この人、性格は結構良い方なのかな?
でも私は大丈夫だったけど、先輩は一歩間違えればとんでもない事になっていたかもしれない。
そこは少し文句を言おうと思ったが、先輩の方が先に口を開いた。
「俺は大丈夫だったけど、もし俺があの時気付かなかったら、珠夜が……」
先輩は心配そうに私の顔を見た。
心配してくれたのは嬉しかったけど、私はそれよりも自分の名前を呼んでくれた事にドキッとしてしまった。
先輩は、相手の呼んで欲しい名前で呼ぶようにしている。
私は割と何でも良かったんだけど、「何でも良いです」って言ったら、石田先輩は「じゃあ、珠夜って呼んでも良いか?」と言ってきた。
あの時は思わず「はい」って言っちゃったけど、それは石田先輩をまだ恋愛対象として見ていなかったからで、今は名前を呼ばれる度にドキッとしてしまう。
「わ、私は全然大丈夫です!心配してくれてありがとうございました」
「……いや、全然いいけど」
「皆さんお怪我が無くて、何よりです。それじゃあ、僕はそろそろ帰ります。これからも、気を付けます」
「これからは」じゃなくて「これからも」なんだ。
少しあきれたが、大目に見る事にした。私は小泉先輩が帰って行くのを見届けて、石田先輩の方に向き直った。
「では、私もこれで」
軽くお辞儀をして、秋菜ちゃんの所に戻ろうとしたが、急に石田先輩に肩を掴まれ、後ろにぐいっと引き寄せられた。
「せ、せせせ先輩⁉︎何を……」
「取れてる」
「……え?」
「珠夜って、いつもガラス玉のついた髪ゴムで髪結んでるだろ?そのガラス玉が取れちゃってるんだよ」
え……嘘。
あれ、結構お気に入りの物だったのに……っていうか先輩、何で私の髪飾り知ってるの⁉︎
ちゃんといつも見てくれているからだろうか、と頭の中をぐるぐると色々な考えが飛び回っている内に、石田先輩が一度ここから離れた後、何かを拾って帰ってきた。
「ほら、落とし物」
先輩が差し出した片手の上に乗っていたのは、私の百合の花柄の、透明なガラス玉だった。
「ふぇ!あ、ありがとうございます…」
私は、拾ってくれたんだと、嬉しいと思う反面、先輩と私の距離が近すぎてドキドキしていた為、最初に変な声を出してしまった。
「それじゃ、今から保健室行くぞ」
暫くガラス玉を眺めていると、急に石田先輩が言ってきた。
「…?どうしてですか?」
「念のためだよ」
「わ、私はいいですよ、全然大丈夫ですし」
すると、先輩が私の手首を掴んで歩き出した。
「⁉︎せ…」
「大丈夫、つってるヤツは、大抵大丈夫じゃねぇ事が多いんだよ」
それはどういう偏見ですか?と、一瞬ツッコミたくなったが、我慢してグッと言葉を呑み込んだ。
どうしようと思い、遠くでこの一部始終を見ていた秋菜ちゃんに助けを求めると、秋菜ちゃんは笑顔で親指を立てた。
笑顔と言っても、明らかに悪戯っ子の笑顔だが。
あの秋菜ちゃんの顔からして、何だか「行け」と言われた感じがしたので、私はそのまま先輩に着いて行く事にした。
だが、私はその時見てしまった。
風歌先輩が、今までで一度も見た事がない程、こっちを恨めしげに見ていたのを。
でも、一体どうして?
「秋菜ちゃん」
「ん?」
「私、これから風歌先輩にお土産渡してくるから、ここで待っててくれない?」
「良いけど、あの先輩にわざわざお土産渡さなくてもよくな〜い?むしろ私に渡してよ〜」
「あ、秋菜ちゃんの分はちゃんとあるから、後で渡すね」
「そういう問題じゃないんだけど……まぁいいや、珠夜がそういうんなら、しょうがないし。いってらっしゃい」
「うん、ありがとう、行ってくるね〜!」
私はそう言って、秋菜ちゃんから離れ、風歌先輩の元へ走っていった。
だけど、風歌先輩は人気者だから、周りに人がいすぎて中々渡す事が出来ない。
しかも、私は身長が高い方ではない。
ぴょんぴょん跳ねたり、何回も背伸びをして風歌先輩を探していると、なんと先輩の方が先に私に気付いてくれた上に、こっちに来てくれた。
先輩は私の目の前まで来ると、ニッコリと優しく微笑んだ。
「珠夜ちゃん久しぶり。元気?」
「はい!物凄く元気です!」
思わず大きな声で言ってしまい、さらに声が裏返ってしまった。ヤバイ、変人って思われたかな、と思ったのも束の間、先輩はクスクスと笑い始めた。
「そう。なら良かった」
(よし、今だ!)
私は後ろに隠していたお土産の入った袋を、先輩にサッと渡した。
「あの、これ、沖縄に行った時のお土産で、その……どうぞ!」
そう叫んだ後チラッと先輩の顔を見た。
先輩は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐにあの優しい微笑みに戻った。
「わざわざありがとう。でも私、沖縄嫌いなの」
「え」
「なーんて、冗談よ、冗談。本当は沖縄大好き!」
「なんだ〜、脅かさないで下さいよ〜!」
なんて、口では笑っておいたが、内心かなり焦った。
「ウフフ、ごめんね。あ、これ本当にありがとう。大切に保管するね」
「あ、ありがとうございます!」
良かった、先輩に気に入って貰えて。
私がお土産を渡せた事が嬉しすぎて思わずニヤニヤ笑っていると、先輩は何かを思い出したような顔をした。
「そうだ、珠夜ちゃんに話したい事が…」
そう言い掛けた瞬間、ドドドドドと先輩の周りに人が集まってきた。
「先輩、私からも渡したい物がありまーす‼︎」
「僕も!」
「私も!」
「先輩こっちー‼︎」
…何を話したかったんだろう?
まあ波が去った後で聞けば良いか、と秋菜ちゃんの所に戻ろうとしたその時、ふと野球部の子達が目に入った。
石田先輩や、風歌先輩の周りに集まっている人だかりより少し離れた所で、野球部の4人はキャッチボールをして遊んでいた。
まぁまぁ離れているし、こっちにボールが来る心配もないだろうと、そう思った矢先ーー。
高3の先輩が、高1の後輩に向かって、ふざけてやったのか、思いっきり強い球を投げた。
高1の子は、ビックリして避けてしまった。
容赦なさすぎるでしょ、と思いながら、ボールを目で追っている時に気付いた。
このままだと、ボールが石田先輩の頭……しかも後頭部に当たってしまう!
今の球を投げた先輩は、かなり有名で、この学校で1番速くて強い球を投げられると言われている、小泉先輩なのだ。
球が当たってしまった十数人の内、数人は腕や足が骨折してしまったという。
小泉先輩曰く、わざとやっているわけではないらしいが……。
それにしても、周りの人に当たり過ぎだろう!とツッコミたい所だが、今はそれどころしゃない。
だけど、その子達は腕や足だったから、まだ良かったわけで、石田先輩の場合は、頭で、もしかしたら……後頭部に、当たってしまうかもしれない……!
高校生活、最後の最後に、怪我なんかさせたくない!
私は、今までにない程の速さで、石田先輩の元へ走っていった。
こういう時に限って、先輩の後ろには誰もいないし、みんなが先輩の事しかみていないので、誰も気付かない。
人だかりが出来ているのは、丁度先輩から見て前と横なのだ。
先輩は背が高いから、私がジャンプして先輩の体を押し倒さないと、頭を守る事が出来ない。
私は、身長が低い代わりにジャンプ力はあるから、これに頼るしかない。
一瞬先輩に、「避けて」と言おうとしたが、あの球の速さからして、恐らくそんな時間はない。
一か八か。
私は思いっきりジャンプして、先輩の体を押し倒した。
先輩が無事なのを確認して、ホッとしたのも束の間、今度は私が危ない状態になった。
このままだと、先輩と同じ後頭部ではないが、確実に私の側頭部…こめかみに当たるだろう。
私は目をぎゅっとつむった。
避けるのは無理だと諦めかけた、その時。
いきなり誰かに手首を思いっきり引っ張られ、私の頭の後ろでブチっという嫌な音がした後、そのままドサっと地面に倒れ込んだ。
だが、地面に倒れ込んだ割には、体が全く痛くない。
「あっぶねえ……」
頭上から石田先輩の声が聞こえた。
ゆっくり目を開けて起き上がると、どうやら私はうつ伏せになっていたらしく、誰かを下敷きにしていた。
その時、私はとんでもない事実に気付いてしまった。
なんと、あの時私の手首を引っ張ってピンチから助けてくれたのは、石田先輩だったのだ。
いやそれよりも、石田先輩が、まるで私を抱きしめるようにして倒れていたという真実に驚いた。
しかも今は、少女漫画によく出てくる描写のように、「カップルが倒れ、暫くして、相手と自然に目が合ってしまう」みたいな感じになっているのだ!
恥ずかしすぎて顔を真っ赤にしていると、先輩が私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
そう言われた瞬間、私は物凄い速さで飛び退いて、立ち上がった。
「は、はい!だだだ大丈夫です!」
本当は色々な意味で、全然大丈夫じゃない。
何となく、周りの女子達の目が物凄く殺気立ってる気がする。
しかも、先輩の顔が近づいた瞬間、ドキドキしすぎて何回も噛んでしまった。
正直言って、めちゃくちゃ恥ずかしい。
先輩は何回も噛んだ私を見てクスッと笑うと、ゆっくり立ち上がった。
「あ、あの、助けてくれて、あ、ありがとうございました!」
私は腰が九十度も曲がるくらい、深くお辞儀をして、お礼を言った。
「いや、こっちこそ、助けてくれてありがとな。あとちょっとでヤバイ事になってただろうし……あれ?」
すると、石田先輩が私に何かを言おうとしたが、その時、あの小泉先輩が、こっちに向かって走ってきた。
小泉先輩は、ハアハアと息を切らしている。
「すいません、思いっきり球投げちゃって……あの、わざとではなかったんですけど、大丈夫ですか?」
あれ……もしかして、この人、性格は結構良い方なのかな?
でも私は大丈夫だったけど、先輩は一歩間違えればとんでもない事になっていたかもしれない。
そこは少し文句を言おうと思ったが、先輩の方が先に口を開いた。
「俺は大丈夫だったけど、もし俺があの時気付かなかったら、珠夜が……」
先輩は心配そうに私の顔を見た。
心配してくれたのは嬉しかったけど、私はそれよりも自分の名前を呼んでくれた事にドキッとしてしまった。
先輩は、相手の呼んで欲しい名前で呼ぶようにしている。
私は割と何でも良かったんだけど、「何でも良いです」って言ったら、石田先輩は「じゃあ、珠夜って呼んでも良いか?」と言ってきた。
あの時は思わず「はい」って言っちゃったけど、それは石田先輩をまだ恋愛対象として見ていなかったからで、今は名前を呼ばれる度にドキッとしてしまう。
「わ、私は全然大丈夫です!心配してくれてありがとうございました」
「……いや、全然いいけど」
「皆さんお怪我が無くて、何よりです。それじゃあ、僕はそろそろ帰ります。これからも、気を付けます」
「これからは」じゃなくて「これからも」なんだ。
少しあきれたが、大目に見る事にした。私は小泉先輩が帰って行くのを見届けて、石田先輩の方に向き直った。
「では、私もこれで」
軽くお辞儀をして、秋菜ちゃんの所に戻ろうとしたが、急に石田先輩に肩を掴まれ、後ろにぐいっと引き寄せられた。
「せ、せせせ先輩⁉︎何を……」
「取れてる」
「……え?」
「珠夜って、いつもガラス玉のついた髪ゴムで髪結んでるだろ?そのガラス玉が取れちゃってるんだよ」
え……嘘。
あれ、結構お気に入りの物だったのに……っていうか先輩、何で私の髪飾り知ってるの⁉︎
ちゃんといつも見てくれているからだろうか、と頭の中をぐるぐると色々な考えが飛び回っている内に、石田先輩が一度ここから離れた後、何かを拾って帰ってきた。
「ほら、落とし物」
先輩が差し出した片手の上に乗っていたのは、私の百合の花柄の、透明なガラス玉だった。
「ふぇ!あ、ありがとうございます…」
私は、拾ってくれたんだと、嬉しいと思う反面、先輩と私の距離が近すぎてドキドキしていた為、最初に変な声を出してしまった。
「それじゃ、今から保健室行くぞ」
暫くガラス玉を眺めていると、急に石田先輩が言ってきた。
「…?どうしてですか?」
「念のためだよ」
「わ、私はいいですよ、全然大丈夫ですし」
すると、先輩が私の手首を掴んで歩き出した。
「⁉︎せ…」
「大丈夫、つってるヤツは、大抵大丈夫じゃねぇ事が多いんだよ」
それはどういう偏見ですか?と、一瞬ツッコミたくなったが、我慢してグッと言葉を呑み込んだ。
どうしようと思い、遠くでこの一部始終を見ていた秋菜ちゃんに助けを求めると、秋菜ちゃんは笑顔で親指を立てた。
笑顔と言っても、明らかに悪戯っ子の笑顔だが。
あの秋菜ちゃんの顔からして、何だか「行け」と言われた感じがしたので、私はそのまま先輩に着いて行く事にした。
だが、私はその時見てしまった。
風歌先輩が、今までで一度も見た事がない程、こっちを恨めしげに見ていたのを。
でも、一体どうして?
