泡と恋

あれはまだ、私が中学一年生で、剣道部と書道部に兼部したての頃。

5月の下旬、だったかな。あの時は、部活以外に中間テストもあって、結構忙しかった。

この頃からは、もう石田先輩に憧れていて、早く追いつきたいって思ってた。

でも、練習しすぎ、というか無理しすぎて、ある日、部活の朝練の途中で、ぶっ倒れた。

あの時は、本当に焦った。だって、いつも朝練してるのは私だけだったし、一様顧問の先生から許可は貰ってたけど、剣道場には誰もいなかったし、誰も来なかった。

今は医療コースだし、医学について学んでるから分かるけど、当時は全くの無知だったから、頭の中はパニック状態だった。でも、倒れた原因は、多分ストレスか疲労だろうな、って多少見当は付いていた。

(ヤ……ヤバイ、私、過労死するのかな……意識、が……ん?)

その時、急に誰かの足音が聞こえてきた。
その足音が段々大きくなってきた所で、私の意識は途切れた。

それで、気が付いたら保健室のベッドに寝かされていた。

保健室の先生からは、部活は程々にして、今は中間試験に集中しなさいって、言われた。

この日は、大事をとって早くも朝の内に早退となった。

両親に電話すると、すぐに車で迎えに来てくれるというので、保健室で先生と一緒に、大人しく待っていた。

暫くして、あれ?そういえば私を保健室まで運んでくれたのは、誰だったんだろう?、と今更ながら疑問に思った。私は保健室の先生に尋ねる事にした。

「先生」

「ん?」

「あの、私をここまで運んでくれた人って、誰ですか?出来れば、お礼を言いたいんですけど」

「ああ、あの子ね。あの子は確か、吹奏楽部の子、じゃなかったかしら」

「吹奏楽部?」

「ええ。生徒達の間ではかなり人気で、成績も良いって、先生方は仰っていたわよ」

「そうなんですね……ありがとうございます」

「いいえ」

すると、急に先生の側にあった電話が鳴り出した。
先生は電話をとり、暫く誰かと何かを会話した後、私の方を振り返り、「もうすぐ親御さんが到着するそうよ」と言った。

その後私は、学校の正門前まで行き、先生にお礼とさようならを言って、家へ帰った。

その日は、勉強はあまりせずにベッドに入り、すぐ眠りについた。

後日、私はまた朝早くに学校に行き、私を助けてくれた人を探す事にした。

早速秋菜ちゃんに、吹奏楽部に入っていて成績が良く、生徒達に人気がある人はいないかと尋ねた。

すると、秋菜ちゃんは少し考え込んだ後、「ああ、それなら、きっと風歌先輩だね」と言った。

どんな人なの?と聞くと、「中2の先輩で、美人で性格も頭も良く、学園一の歌姫と言われるくらい歌が上手で、吹奏楽部ではサックスと副部長、中学の生徒会では副会長を務めてるスーパーエリートな人だよ」と教えてくれた。

でも、どうして吹奏楽部の風歌先輩が、剣道場にいたんだろう、という疑問が生まれた。

思わずこの疑問を口にすると、秋菜ちゃんは、「風歌先輩と石田先輩は仲が良いから、あの時偶々風歌先輩が、体育館にいた石田先輩に、教室に忘れていった水筒を届けてて、その時偶然珠夜を見つけて保健室に連れて行ってくれたんだって」と言った。

この頃から、石田先輩と風歌先輩は恋人同士なのでは、という噂が広まり始めていた。

私の学校の剣道場は、体育館の上の2階にある。だから、急に上からバタっと大きな音がして、風歌先輩はすぐに剣道場に行く事が出来た。

でも、また疑問が生まれた。

だとしたら、石田先輩も体育館にいた事になる。上の大きな音に気付いても、気にならなかったのだろうか?それとも気付かなかった?それに、体育館にいた理由が朝練なら、何故剣道場に来なかったんだろう?

ダメだ。こうなったらキリがない。

私は考えるのをやめた。

その後、風歌先輩にお礼を言いたいと思って、会える機会をうかがっていたが、今日まで会う事は叶わなかった。

風歌先輩は、生徒会や部活だけでなく、習い事として歌も習っていたらしく、忙しすぎて話せる機会が全くなかったのだ。

さらに、私の学校では、他の学年のクラスに行ってはいけないというルールもあった。
だから、休み時間になっても行けなかった。