※ライターより編集部さんへ
テープ起こしをして読みづらくないよう少し手を加えましたが、内容はほぼそのままです(インタビュー部分以下同)。
●語り手・籠目原佐知代さん(55歳) 聞き手・久遠
まぁ、このインタビュー、週間スワイプに載るんですか?
あたくし、時々読んでますよ、おたくさまの雑誌。最近、女の市長と自治体の男性職員の不倫をすっぱ抜いていましたよねぇ。
じゃあ、あなた……久遠さんは、週間スワイプの記者なのかしら? え、契約ライター? ま、どっちにしろ、あたくしの話が載るんですよね。あらいやだ、写真も撮るの。ちょっと待って。
(※ライター注 籠目原さん化粧直し。その後数枚、コンデジで撮影)
失礼いたしました。改めまして、籠目原結婚相談所の相談員、籠目原佐知代です。
苗字からもお分かりの通り、あたくしはここの所長も兼ねております。
まずは、この籠目原結婚相談所のことを少しお話しさせてちょうだい。
結婚相談所というのは、おおむね二つに分けられます。
一つは、お相手を探している男女の間に相談員が――うちでは相談員といってますけれど、仲人とかコンシェルジュと呼んだりもするところもあるわね――とにかく、所員が完全に間に入って縁をお繋ぎするタイプ。
うちはこちらに当てはまります。お相手選びから初めての顔合わせ、その後の交際、そしてご成婚まで、担当がとことん介入させていただくのよ。いわゆる『結婚相談所』と聞いて、真っ先に浮かぶのがこのタイプじゃないかしら。
一方で、男女が親しくなれるイベントの運営を中心としているところもあるの。
こういうタイプのところは、昔ながらの結婚相談所より会費が安いのよ。結婚を見据えた男女の出会いを目的としつつも、バーベキューやらキャンプやら、学校のクラブ活動みたいに楽しくイベントに参加できるのもあって、会員数が増えているようね。
それから、イベントの合間に相談員がちょっと間に入る、前者と後者の混合型もあるみたい。
とにかく、今の流行りはこういったイベント中心型かもしれないわ。
でもね、あたくしは、相談員がつきっきりで見守るうちみたいなところの方が、何というか『本気』の度合いが強いと思うの。高いお代を払う分、身が引き締まるというか……。
あら、久遠さんも同感ですって? 気が合うわね。
――ところで、一つ聞いていいかしら。
久遠さんは、どうしてうちなんかに取材を?
うちはこの通り、こぢんまりしているし会員数だって多くない。雑誌のインタビューなら、もっと規模の大きなところに申し込んだ方がいいんじゃない? もしかして、大手さんには断られたからうちに……。
え、『会員数より真摯な雰囲気に惹かれた』『ここだって成婚率は悪くない』ですって?
まぁ、ラジオのCMを聞いてくだすったのね。東西放送さんでは十五年前からコマーシャルを打っているのよ。
『あなたの幸せ、ずっと誰かが待っているとしたら――』って、あたくしが考えた文句なの。なかなかいいでしょ?
うちは母の代から結婚相談所を営んでいて、もう設立三十年。規模としては小粒だけれど、生涯の伴侶を見つけたい人たちに真摯に寄り添ってまいりました。そこを分かっていただけているのね、嬉しいわぁ!
週間スワイプって聞いて、最初はゴシップ記事みたいな下らない内容になるんじゃないかと心配したけれど、久遠さんならうちのことを真面目に書いてくれそう。
うちはね、人と人のご縁を繋ぐだけじゃなく、めでたくご結婚が決まったあともしっかりサポートさせていただいているのよ。
結婚式場と連携してお二人の望まれる最高のウエディングプランを練ったり、和装をご希望の場合は腕がいい着付け師さんを手配したり、いろいろやっているわ。
こういうこともしっかり書いてくださいな。雑誌に取り上げられればいい宣伝に……って、あら失礼。
とにかく、あなたの心意気、しっかり伝わったわ。なんでも聞いてちょうだい。できる限り正直に答えましょう。
え、大変だった話を聞きたいの?
苦労なんて毎日しているけど……。
『もう五年も会費を払っているのに成婚に至らない。二十代の嫁を早く寄越せ』って怒鳴り込んでくる還暦のお爺さんやら、『紹介してもらった男性の釣り書きを見せてもうちの娘が頷かない』って泣いて連絡してくる親御さんやら……。対応に追われる日々よ。
後者のお嬢さんは、韓国の男性アイドルみたいな見た目の方以外興味がないんですって。そこまで容姿がいい方は、結婚相談所に登録せずともお相手を見つけられるでしょうからねぇ……。
言ってしまえば、ご成婚に至らない方は、総じて身の程知らずなのです。
これは悪口じゃありませんよ。事実ですから。
自分のことほどよく見えないのは、ある意味当たり前です。それに気付かせて差し上げるのも結婚相談所の役目。
うちでは対面でじっくりお話をして、相談者の方に己を知ってもらうことから始めます。
まぁ、あたくしが何を言っても聞き入れてくださらない方はいて、やり取りに苦労するのは確かですけど……。
でもねぇ、そういう方にかかわることよりもっとやるせない気持ちになるのは、せっかく成婚退会に至った方が、お別れしてしまった場合よ。
うちではデートを重ねたあとどちらかがプロポーズをして、双方が結婚を誓った……つまりご婚約の時点で『卒業』となるの。お二人からご成婚料をちょうだいして、あたくしたちはおめでたい門出をお祝いするのよ。
たいがいのカップルはそのあとすぐご結婚されるけど、残念ながらお別れとなるケースもあります。
そうなってしまったら……ええ、ものすごく悲しいし、悔しいわよ。せっかくみんなで力を合わせてご縁が繋がったと思ったのに、最後の最後で上手くいかないなんて、がっかりにもほどがあるわ。
最近もね、一組、成婚退会のあとお別れすることになったカップルがいたの。しかも『あんな事情』で……。
え、そのことについて詳しく聞きたい?
うーん、どうしようかしら。事情が事情だから、言ってもいいかどうか……。
――いえ、お話ししましょう。あたくしたちがこういう苦労を乗り越えて頑張ってるって、知っていただきたいもの。
問題のカップルは、男女とも同じくらいの時期に入会されたの。
男性のお名前は左海義久さん。女性は廉崎結花さん。……ああ、一応、記事にするときは仮名にしてちょうだい。
義久さんと結花さんは、入会して七か月ほどでご成婚に至ったわ。苦労がまったくなかったわけじゃないけれど、まあ割と順調だったわね。
でも『あんなこと』になってしまって……。
お二人は、結婚式のあとに入籍の予定だったの。お式の際はあたくしたちも力をお貸しして、控えめながらもとてもいいものになったと今でも思うわ。
縁を繋いだのはうちです。手前味噌じゃないけれど、義久さんと結花さんはとてもお似合いのカップルだった。
現に、神社でのお式の最中、白無垢と羽織袴姿であんなに幸せそうに笑っていたのに……。
あたくし、今でも分からないの。どうして『あんなこと』になってしまったのか。
『それ』が起きたのは、素晴らしいお式のあと一週間もしないうちだったわ。
一体なぜ……。
なぜ、義久さんと結花さんは……。
テープ起こしをして読みづらくないよう少し手を加えましたが、内容はほぼそのままです(インタビュー部分以下同)。
●語り手・籠目原佐知代さん(55歳) 聞き手・久遠
まぁ、このインタビュー、週間スワイプに載るんですか?
あたくし、時々読んでますよ、おたくさまの雑誌。最近、女の市長と自治体の男性職員の不倫をすっぱ抜いていましたよねぇ。
じゃあ、あなた……久遠さんは、週間スワイプの記者なのかしら? え、契約ライター? ま、どっちにしろ、あたくしの話が載るんですよね。あらいやだ、写真も撮るの。ちょっと待って。
(※ライター注 籠目原さん化粧直し。その後数枚、コンデジで撮影)
失礼いたしました。改めまして、籠目原結婚相談所の相談員、籠目原佐知代です。
苗字からもお分かりの通り、あたくしはここの所長も兼ねております。
まずは、この籠目原結婚相談所のことを少しお話しさせてちょうだい。
結婚相談所というのは、おおむね二つに分けられます。
一つは、お相手を探している男女の間に相談員が――うちでは相談員といってますけれど、仲人とかコンシェルジュと呼んだりもするところもあるわね――とにかく、所員が完全に間に入って縁をお繋ぎするタイプ。
うちはこちらに当てはまります。お相手選びから初めての顔合わせ、その後の交際、そしてご成婚まで、担当がとことん介入させていただくのよ。いわゆる『結婚相談所』と聞いて、真っ先に浮かぶのがこのタイプじゃないかしら。
一方で、男女が親しくなれるイベントの運営を中心としているところもあるの。
こういうタイプのところは、昔ながらの結婚相談所より会費が安いのよ。結婚を見据えた男女の出会いを目的としつつも、バーベキューやらキャンプやら、学校のクラブ活動みたいに楽しくイベントに参加できるのもあって、会員数が増えているようね。
それから、イベントの合間に相談員がちょっと間に入る、前者と後者の混合型もあるみたい。
とにかく、今の流行りはこういったイベント中心型かもしれないわ。
でもね、あたくしは、相談員がつきっきりで見守るうちみたいなところの方が、何というか『本気』の度合いが強いと思うの。高いお代を払う分、身が引き締まるというか……。
あら、久遠さんも同感ですって? 気が合うわね。
――ところで、一つ聞いていいかしら。
久遠さんは、どうしてうちなんかに取材を?
うちはこの通り、こぢんまりしているし会員数だって多くない。雑誌のインタビューなら、もっと規模の大きなところに申し込んだ方がいいんじゃない? もしかして、大手さんには断られたからうちに……。
え、『会員数より真摯な雰囲気に惹かれた』『ここだって成婚率は悪くない』ですって?
まぁ、ラジオのCMを聞いてくだすったのね。東西放送さんでは十五年前からコマーシャルを打っているのよ。
『あなたの幸せ、ずっと誰かが待っているとしたら――』って、あたくしが考えた文句なの。なかなかいいでしょ?
うちは母の代から結婚相談所を営んでいて、もう設立三十年。規模としては小粒だけれど、生涯の伴侶を見つけたい人たちに真摯に寄り添ってまいりました。そこを分かっていただけているのね、嬉しいわぁ!
週間スワイプって聞いて、最初はゴシップ記事みたいな下らない内容になるんじゃないかと心配したけれど、久遠さんならうちのことを真面目に書いてくれそう。
うちはね、人と人のご縁を繋ぐだけじゃなく、めでたくご結婚が決まったあともしっかりサポートさせていただいているのよ。
結婚式場と連携してお二人の望まれる最高のウエディングプランを練ったり、和装をご希望の場合は腕がいい着付け師さんを手配したり、いろいろやっているわ。
こういうこともしっかり書いてくださいな。雑誌に取り上げられればいい宣伝に……って、あら失礼。
とにかく、あなたの心意気、しっかり伝わったわ。なんでも聞いてちょうだい。できる限り正直に答えましょう。
え、大変だった話を聞きたいの?
苦労なんて毎日しているけど……。
『もう五年も会費を払っているのに成婚に至らない。二十代の嫁を早く寄越せ』って怒鳴り込んでくる還暦のお爺さんやら、『紹介してもらった男性の釣り書きを見せてもうちの娘が頷かない』って泣いて連絡してくる親御さんやら……。対応に追われる日々よ。
後者のお嬢さんは、韓国の男性アイドルみたいな見た目の方以外興味がないんですって。そこまで容姿がいい方は、結婚相談所に登録せずともお相手を見つけられるでしょうからねぇ……。
言ってしまえば、ご成婚に至らない方は、総じて身の程知らずなのです。
これは悪口じゃありませんよ。事実ですから。
自分のことほどよく見えないのは、ある意味当たり前です。それに気付かせて差し上げるのも結婚相談所の役目。
うちでは対面でじっくりお話をして、相談者の方に己を知ってもらうことから始めます。
まぁ、あたくしが何を言っても聞き入れてくださらない方はいて、やり取りに苦労するのは確かですけど……。
でもねぇ、そういう方にかかわることよりもっとやるせない気持ちになるのは、せっかく成婚退会に至った方が、お別れしてしまった場合よ。
うちではデートを重ねたあとどちらかがプロポーズをして、双方が結婚を誓った……つまりご婚約の時点で『卒業』となるの。お二人からご成婚料をちょうだいして、あたくしたちはおめでたい門出をお祝いするのよ。
たいがいのカップルはそのあとすぐご結婚されるけど、残念ながらお別れとなるケースもあります。
そうなってしまったら……ええ、ものすごく悲しいし、悔しいわよ。せっかくみんなで力を合わせてご縁が繋がったと思ったのに、最後の最後で上手くいかないなんて、がっかりにもほどがあるわ。
最近もね、一組、成婚退会のあとお別れすることになったカップルがいたの。しかも『あんな事情』で……。
え、そのことについて詳しく聞きたい?
うーん、どうしようかしら。事情が事情だから、言ってもいいかどうか……。
――いえ、お話ししましょう。あたくしたちがこういう苦労を乗り越えて頑張ってるって、知っていただきたいもの。
問題のカップルは、男女とも同じくらいの時期に入会されたの。
男性のお名前は左海義久さん。女性は廉崎結花さん。……ああ、一応、記事にするときは仮名にしてちょうだい。
義久さんと結花さんは、入会して七か月ほどでご成婚に至ったわ。苦労がまったくなかったわけじゃないけれど、まあ割と順調だったわね。
でも『あんなこと』になってしまって……。
お二人は、結婚式のあとに入籍の予定だったの。お式の際はあたくしたちも力をお貸しして、控えめながらもとてもいいものになったと今でも思うわ。
縁を繋いだのはうちです。手前味噌じゃないけれど、義久さんと結花さんはとてもお似合いのカップルだった。
現に、神社でのお式の最中、白無垢と羽織袴姿であんなに幸せそうに笑っていたのに……。
あたくし、今でも分からないの。どうして『あんなこと』になってしまったのか。
『それ』が起きたのは、素晴らしいお式のあと一週間もしないうちだったわ。
一体なぜ……。
なぜ、義久さんと結花さんは……。

