インターホンの音を聞いて、床に倒れた私は目を開けました。
 どうやらショックのあまり気を失っていたようです。
 スマホを確認すると、時刻は深夜の二時でした。
 日奈子からの着信はありません。
 私には無事を祈ることしかできませんでした。

 インターホンは鳴り続けています。
 どれだけ待っても止まりません。
 こんな時間帯にまともな人間が訪問してくるはずがありません。
 相手の正体を察しつつも、私は壁のパネルを操作し、部屋の前に誰がいるのかカメラで確かめました。

 画面いっぱいに人間の頭部が映っています。
 近すぎて見えづらいのですが、頭を小刻みに上下させることでインターホンを押しているようです。
 角度的に顔は分からないものの、それは紛れもなくお辞儀さんでした。

 私は小さく悲鳴を上げてカメラ映像を切り、リビングの端まで逃げました。
 布団を頭で被り、目を閉じてじっと丸くなります。
 今の私にはそれくらいしかできません。
 玄関に向かうという選択は実行しようとも思いませんでした。

 そのうちインターホンの音が止みました。
 安堵したのも束の間、今度は真後ろの雨戸がゴンゴンと鈍い音が鳴り始めます。
 お辞儀さんが頭をぶつけているのでしょう。
 侵入を諦めたわけではなく、むしろ過激になっていました。

 私はトイレに駆け込み、緊張と恐怖から嘔吐しました。
 その直後、施錠した扉の向こうから頭をぶつける音が始まります。
 お辞儀さんはすぐそこまで迫っていました。

 パニック寸前の私は頭を抱えて叫びました。

「もう、やめて。どっか行ってよ!」

 音がぴたりと止まりました。
 耳を澄ませますが、何も聞こえません。
 ドアノブが回されることもありませんでした。

(怒鳴られていなくなった……?)

 希望的観測を脳裏に浮かべつつも、意識はまだ油断していません。
 私は物音を立てることなく、そのままひたすら待ちました。
 スマホの時刻表示が朝の五時になったところで、私はようやく動き出しました。

 ゆっくりと鍵を開け、慎重に扉を開きます。
 扉が半ばほどで何かに引っかかって止まりました。
 私は咄嗟に扉を閉めようとするも間に合わず、そこにあった光景を目の当たりにしてしまいます。

 トイレの前には、頭を下げたお辞儀さんが立っていました。