二週間前から僕は変な夢を見ています。
 眠りに落ちると、まず長い直線の廊下に立っています。
 内装からして学校でしょうか。
 机や椅子、ロッカーが散乱しています。

 十秒もしないうちに、遠くから足音が聞こえてきます。
 すぐに人影が見えまず。
 それが忌村さんです。

 忌村さんというのは、廊下の壁に「忌村」という文字がたくさん書き殴られているので僕が名付けました。
 夢の中には他に誰もいませんし、あれが忌村さんなのでしょう。
 とにかく忌村さんは全力疾走で近付いてきます。
 追いかけてくる最中はなぜか微笑んでいます。
 身の危険を感じた僕は必死で逃げます。

 数百メートルの距離を走り抜けると、「EXIT」の蛍光灯で照らされる扉が見えてきます。
 体当たりで扉を開いた瞬間、僕は現実で目覚めます。
 もちろん忌村さんもいません。
 そこは何の変哲もない自室です。

 最初は嫌な夢を見たのだと思っていました。
 趣味でよく観ているホラー映画の影響だろう、と苦笑したものです。

 僕が笑えなくなったのは、翌日にも同じ夢を見た時です。
 再び僕は忌村さんに追いかけられました。
 一直線の廊下を使った鬼ごっこは妙にリアルで、疲れや息遣いは現実と遜色ないように感じました。

 二日目もなんとか逃げ切り、僕は自室で飛び起きました。
 鏡に映った顔は汗だくで青白く、まるで幽霊みたいでした。

 それから毎日欠かさず、僕は忌村さんに追いかけられる夢を見るようになりました。
 しkも廊下が徐々に長くなり、忌村さんの走るスピードが上がっていきました。
 ようするに出口に辿り着くのが日ごとに難しくなっているのです。

 その変化に気付いた僕は様々な工夫を凝らしました。
 まず寝ないことで夢を回避を試みました。
 しかし、気が付いたら眠ってしまうのであきらめました。

 次にインターネットで速く走る方法や持久力を付けるコツを調べて、現実でも実践し始めました。
 練習の成果は一週間ほどで実感できました。
 忌村さんを振り切れるスピードとスタミナが少しだけ付いた気がします。

 夢の中では障害物で忌村さんの進路を妨げたり、互いの距離を測りながらペースを調整し、余裕を作れるようになりました。
 僕は思いつく限りの案を駆使して、とにかく捕まらないように努力しました。

 ですが僕の工夫を嘲笑うかのように、難易度は容赦なく上昇していきます。
 昨日なんて忌村さんがすぐそこまで迫っていました。
 あと数秒でも行動が遅れていたら出口まで間に合わなかったでしょう。

 今夜の夢で、僕はきっと忌村さんに捕まります。
 一体どうなるのか分かりません。
 瞬きすらも恐ろしいです。
 無事に明日を迎えられるか分かりませんが、なるべく頑張ってみようと思います。

 皆様も忌村さんにはご注意ください。