余命僅かな君との最期の日々


 「じゃあ、次いっくよー!!」

 と言う榊原さんに連れられ、少しずつまた歩いていく。午前中とは違い、今度は外の方を歩いていく。そこにはペンギンがいたり、上から、魚たちが見られるというコーナーがあった。その全てに対して、榊原さんは「かわいいいい」などと、テンションを高くしながら見ていた。

 そして極めつけは、イルカショーだ。


 「楽しみだね」

 と、最前列に座りながら榊原さんが言う。

 「本当にここで見るのか?」
 「うん! だって、最前列で見てこそでしょ?」

 いやいや、水が飛んでくる不快感が確実に勝つ気がする。

 「俺、別のところに行っていいか?」

 そう言って席を立つと、「だーめ。一緒に出ないとデートじゃないよ」と言って腕をつかまれ、席に戻される。

 「おいおい、死神がいるからいいんじゃねえか? 死神と一緒に楽しめよ」
 「だめ、私は浩二君と一緒に居たいの」
 「そんなこと言ったら、死神泣くぞ」
 「泣いてもいいもん。だって私の命を奪うための存在だから…………あ、死神さん泣いてる」
 「かわいそうだな」

 あきれながら言うが、死神って泣くものなのか?

 「さーて皆さん……」



 イルカショーが始まった。その際に「時間稼ぎ成功!」と言って、ピースを向けてきた。なるほど、だから粘ってたのか。

 そして、俺たちはイルカショーを見る。だが、今から大量の水が飛んでくると考えたら少しいやな感じがする。ああ、どうか水があまり飛んできませんように。

 結論を言えば、水は大量に飛んできた。俺が思っていたよりもだ。もう水しぶきでどんどん体がびちょびちょになっていく。


 最悪だし不快だ。
 だが、俺の隣で「やっほーーー!!!」と隣で絶好調に機嫌がいい榊原さんを見ると、もういいかと思ってしまう。
 そして、イルカショーが終わった後、クラゲコーナーへと向かう、クラゲコーナーではぷよぷよとしてそうなかわいい生き物が沢山泳いでいる。

 やばいな、この生き物気味悪いけど、可愛いな。
 こんな不思議な生き物がいるものなのか。
 そうして俺がじっと見てると、

 「もう次行こうよ」

 そう、冷たい声で榊原さんが言う。

 「え、これには興味ないの?」
 「うん。クラゲなんてきもいだけだし」
 「……俺たち合わないのかもしれんな」
 「そうだね。じゃあ、さよなら」
 「え?」
 「合わないかもしれないって言ったのそっちじゃん。だからそれに乗っただけだよ」
 「何だよ」
 「別にー」

 榊原さんには冗談など通じないのか。そして次の場所へといく。その次の場所では、榊原さんも楽しんでいるようだった。

 俺も十分楽しんでいると思うが、彼女の喜びように比べれば大したことはない。(クラゲコーナー以外だが)
 彼女は、寿命が四か月しかない。だからこそこんなに楽しんでいる。そう考えたら、なんとなく命のことについて考え込んでしまう。
 余命僅かの方が楽しいのかなだとか、人生とは何なのだろうかとか、哲学っぽいことを。


 そして再び入り口付近に戻ってきた。

 ここは、お土産コーナーだ。お土産とは言っても、魚の形を模したボールペンや、魚のぬいぐるみなどだ。
 それらをキラキラとした目で彼女はしっかりと、一つずつ見ていく。
 そしていつの間にか、彼女の手には沢山のぬいぐるみがあった。これ、金額的にはいくらくらいになるんだろうか。

 「なあ」

 見かねた俺は声をかける。

 「どんだけ買うつもりなの?」
 「えー。思いたったが吉日だよ。ピンと来たら全部買わなきゃ」
 「でも、お前四ヶ月後にはいなくなるぞ」
 「だからだよ。お金使わないとねー。あ! 私が死んだあとは、浩二君に管理任せよっかな? 私の遺品として」
 「やけに上機嫌だな」
 「だってー。癒されるんだもん」

 そう言う彼女の目は本当にまぶしくて、嘘はついてないんだろうなと思う。本当に欲しいんだなとも。

 そして彼女は結局16700円分のぬいぐるみを買った。

 「親とかに怒られないのか?」
 「そんなの私の勝手じゃん」

 そう言えば、俺は榊原さんの親のことを知らないな。
 そう、今更ながらに思った。
 しかし、今の言い方から察するに、結構自由にさせる家なんだろうな。