余命僅かな君との最期の日々

 そうして楽しい日々はついに終わりを告げることなった。

  最終日。つまり鈴奈の余命の一日前。
 俺たちはまたお泊りをすることになった。
 市内の安いホテル、所謂ラブホテルと言われるような場所だ。勿論えっちなことをするつもりはない。
 最後の日を二人で過ごすためだ。

「明日が誕生日だな」

 そう鈴奈に言う。誕生日=鈴奈の死亡予定日だ。今日の二十四時に鈴奈は死んでしまう。俺もちゃんと笑顔でいられているのかもわからない。

「そうだね……」

 そう、消えそうな声で鈴奈が言う。今にも死んでしまいそうな声だ。

「やっぱり私怖いよ。もう朝を迎えることもないし、もう、死ぬのって」
「鈴奈」

 そう言って俺は鈴奈をそっと抱きしめた。

「俺は鈴奈じゃないからその心の内は分からない。でもさ、俺は今鈴奈が震えていることはわかる。俺にできることは少ないかもしれないけど、こう、優しくさせてくれ」

 むしろ、俺もこうしてないと不安でどうにでもなりそうだ。

「……うん」
「俺は悔しいよ。お前が今日死ぬことになってさ。お前の身代わりになってやりたい気持ちだ」
「気持ちだけでうれしいよ。ありがとう」
「……おう」

 そんな気まずい雰囲気になる。俺は鈴奈を慰めたい。だが、空気が悪い。俺にはどうすることもできないのだろうか……。
 この前みたいに歌でも歌うか?
 サッカーでも見るか?
 どうしたらいいのか俺には一切合切分からない。

「ねえ」
「ん?」
「私さ、こんな暗い空気嫌だ。ゲームしよう!」
「え?」
「だってさ、私も嫌だよ。こんな無垢な一日過ごすんだったら、無いのと同じじゃない。だからやろ?」
「……おう」

 そして俺はゲーム機を取る。
 確かにそれもそうだ。
 泣きながら過ごしてたのだったら、ただストレスが溜まるだけだ。

 そしてバトルゲームをやるが、どうにも落ち着かない。鈴奈がもう少しで死んでしまう、その恐怖感が俺を襲う。失うのが怖い、その気持ちで、ゲームでミスを繰り返してしまっている。
「もう、ミスらないでよ」と、鈴奈が怒る。
「ごめんごめん」と謝るが、これも上手く返せているのかわからない。

 俺は鈴奈を楽しませられてない。その事実を痛感する。平常心でやりたい。くそ、これだったら相原さんを呼べばよかったとでも言われそうだ。
 勿論鈴奈は相原さんには何も伝えてないのだから、そんな並行世界は無いのだけれども。

 だけど、少し経ったら結構ハマってしまって、気分よくやった。まあ、最期のゲームが楽しく無く終わっていいはずがないからな。

 それからゲームに飽き、サッカーを見ることにした。
 鈴奈はあれからもサッカーをそこそこ見ていた。
 サッカーを見るとは言っても今リアルタイムでやってるわけでは無い。
 昨日の試合の録画みたいなものだ。
 俺たちは結果を知らない。
 面白いものになりそうだ。

 そして一〇〇分間試合を見終わると、

 そしてついに死の十分前になった、なってしまった。

「怖いよ」

 そう、鈴奈は俺に抱き着く。
 しっかりと。俺の顔が紅潮している感じがするが、今はそんな場合じゃない。

「私、浩二君ともっといろんなことをしたかった、浩二君と一緒に並んですごしていたかった」
「それは俺もだ」

 ここで鈴奈と一緒にいれる未来が無くなるのが嫌だ。

「私ね、子ども欲しかったなあ。子育てをするの。私が必死で子供を育てて、浩二君が働くの。でも、私もせっかくだから働いてみたいし、子どもを育てながらでもできる仕事を探す。本当こんな生活、……してみたかったなあ」
「……鈴奈」

 俺も同じ気持ちだ。
 たったの四カ月、だが俺にとって一番濃い四カ月だった。

「ねえ、浩二君。キスしていい?」
「キス?」
「うん。死ぬ前にキスがしたい。勿論口付けね。だって……今まで恥ずかしくて口まではしてなかったからさ」
「……そうだな。しよう」

 恥ずかしい行為だ。
 キスシーンなんて今でも見るだけで恥ずかしいと思ってしまう。
 ただ、俺も恥ずかしい感情なんて押し殺して鈴奈とキスがしたい。

「うん!」

 そして俺たちは唇を互いの唇にくっつける。不思議な感触だ。俺たちがつながっているような不思議な感じがする。
 なんだろう。これは俺のファーストキスであり、恐らく鈴奈のファーストキスでもある。
 確かにいい感触がするが、できることなら、鈴奈とこれからもこういう行為がしたかったな。

「ありがとうね。キスを受けてくれて」
「それはこっちのセリフだ。ありがとう」
「うん。……あ、もう死まで二分もないや。不思議だね、私もう少ししたらこの世からいなくなるんだよ」
「そうだなあ」

 人の死なんて見たことがない。
 ニュースで殺人事件などのニュースが流れても、他人事にしか思えなかった。
 なのに、今一番大切な人が死ぬ。

「私、死にたくないけど、もう諦めがついてきた気がする。今まで楽しかったよ」
「おう」

 俺はあきらめがついてない。
 諦めたくないんだよ。

「ありがとうね。今まで」
「こちらこそありがとう」
「最後に言い残すことはないか?」
「大丈夫。全てこのノートに書いてあるから。ちゃんと見てよね」

 それは所謂鈴奈の遺書みたいなものだ。

「分かってるって」
「じゃあ、カウントダウンしよう!!! 十,九,八,」

 鈴奈はそう時計を見ながら言う。

「お、おい」
「六,五,」

 やれやれ。自分の死のカウントダウンなんて、強すぎだろ。
 一応誕生日のカウントダウンでもあるが、もはやそう言う気にはなれない。
 ただ、

「「四,三、二,一,」」
「〇!」

 その瞬間鈴奈はジャンプし、そして空中で心臓が止まったのか、そのまま地面に倒れこんでしまった。彼女の胸に手をやる。もう心臓は動いていなかった。

 そんな鈴奈に俺は……

「ハッピーバースデーテューユーハッピーバースデーテューユーハッピーバースデーディア鈴奈……ハッピーバースデーテューユー。お誕生日おめでとう」

 鈴奈の死体の前で誕生日ソングを歌った。
 誕生日を祝わいたいから。
 今日が鈴奈の誕生日であるという事を胸に刻みたいから。

 そして、歌い終わるとすぐに救急車を呼んだ。
 電話越しでの医者の指示通り、心臓マッサージをしていると、

「町田浩二」

 と言われ、別の空間に意識を持っていかれた。