「ただいま」
と一言お母さんに告げ、家に入っていく。お母さんは今日は機嫌がいい感じの声で「おかえり」と告げた。
そしてそのまま部屋に入っていく。
そのままベッドに寝ころんだ。今日の思い出をかみしめながら。
「はあ」
だが、気分がいいのは最初だけで、所詮この家は私にとってただの監獄なのだ。
彼にメールを送りたくなる。彼と話したくなる。
いったいいつから私は彼に依存しだしたのだろう。
しかもたったの二日で。
こんなつもりはなかった。人に懐こうとも思っていなかった。
なのに彼の近くにいたら、何でも話してしまうし、落ち着く。
馬鹿みたい、昨日まではどちらかと言えば嫌いな人種だったのに。
「私はなんなのだろう」
この、気持ちは恋ではないということはわかる。でも、本当に不思議な気持ちだ。
彼がいる、それだけで安心感を感じる。
早く学校に行きたいと、待ち遠しくなる。
こんなことは今までになかった。
家も地獄だけど、学校の方が地獄だった。
そんな中、学校に行きたくなってるとは、本当に驚きのことだ。
茂くんに信頼を置いているからなのかもしれない。
もっと仲良くなりたいとも思っているからかもしれない。
「ご飯! 早く降りてきて」
お母さんの声がした。
その言葉に従い下に降りる。どうやら、また地獄に送り出されるらしい。
下に降りると、お父さんがいた。明らかに機嫌が悪そうな、今にも人を殺しそうな顔だった。
今日何があったのかは知らないし、興味もない。ただ、今の状態だと私に被害が来るという事は一瞬でわかってしまった。
「愛香」
名前を呼ばれただけでぞくっとした。何をされるのが分からない、その事実が恐怖に拍車をかかる。
「愛香! 俺の顔を見て無言は許さんぞ。お帰りだろ!!! 俺は忙しい中帰ってきたんだ。ねぎらいの言葉ぐらいくれや!!!」
怒鳴られた。そのことで落ち込んでしまう。私は悪くないのに……
そしてお父さんは悪態をつきながら席に座る。それを見て私もお母さんも腫物を触るようにお父さんに接する。
本当に嫌だ。ご飯が楽しくない。死んじゃえばいいのに。
気を互いに使いあって、何が楽しいのか。私の思ういい関係というものは気を使わなくていいというものだ。
それに私は茂くんとは気を遣わない会話ができる。その点では、茂くん家族以上になってるということなのか。
「なあ、希恵! 今日のご飯少し味薄くないか? わざわざ塩をつけるの面倒くさいんだけどさあ。俺疲れているのにわざわざ塩を振りかけるという行為を強要してくるのか?」
「……」
「なあ!!! どういう事なんだよ!!!」
そうお父さんがお母さんを責める、その光景は見ていられないほどだった。思わず、現実から目をそむきたくなり、目をつぶってしまう。
「なあ、愛香もさあ、なんで俺の味方をしないんだよ。おかしいだろ! ちゃんと俺の味方をしろよ、希恵を責めろよ。それでも俺の娘かよ」
「私は……お母さんの子どもでもあるんだよ」
そうびくびくとしながら言う。怖い。
「うるせえ!!」
私の顔に向かって拳が飛んできた。それを喰らい、地べたにうずくまる。
「口答えしてんじゃねえよ。お前らを食わせてやってるのは誰だと思ってるんだ!!! いい加減にしろお前ら。希恵はさっさと塩を入れろ!」
「わかりました」
と、お母さんは肉全体に塩をかける。お父さんが「そう、それでいいんだよ」と言っておいしそうに肉をむしゃぼり食べる。
今までのでちょうどよかったのに。
それに正直殴られて、痛い。
別に我慢できない程ではない。
だが、もし痛がるそぶりを見せてしまったら、父親に怒鳴られることは確定なのだ。
案の定、食べてみたら塩辛かった。ギリギリ食べられるけど、あまりおいしくない。むしろさっきまでのほうがおいしかった。
「はあ」
もう嫌だ。
「何? 愛香? ため息ついたか? もしかして俺のこの態度が気に入らないっていうのか? お前が俺の味方をしなかったから殴られた、それだけだろ!!」
本当、私は単にため息をついただけなのに、お父さんの悪口なんて言ってなかったのに。
私にはわかる。お母さんが常に不機嫌なのはこの父親がいるからだと。
お父さんさえいなかったら全てが丸く収まるのに。



