宇宙人が家にやってきた!~社畜祓魔師の家に墜落したUFOに乗っていたのは、超絶破天荒な宇宙人でした~

 時刻は夕方。擬態したちゅうじんと一緒に公園へ向かってみたら、花見客で溢れていた。公園の桜はどこも満開の花を咲かせているので、人が多いのにも納得がいく。

 俺たちは人混みをかき分けながら、大家さんたちのいるところへ足を進めた。

「あ、やっと来たね。こっちだよ~」
「ど、どうも」

 大家さんが手招きしてきたので、そっちの方へ向かう。

「うぇーい! やってる~?」
 
 俺がレジャーシートへ座ると、いきなりショートカットのゆるふわ茶髪に、金の瞳の女性――川島(かわしま)恵美(えみ)が酒瓶片手に勢いよく絡んできた。肩を組んだ拍子に彼女がかけていた眼鏡がズレる。
 
「多田くん~! どう? 一杯」
「い、今はちょっと……」

 酒瓶を近づけて話す恵美さんに、俺は苦笑交じりに遠慮する。
 
「こら、恵美(えみ)さん。まず、新しく来た方の自己紹介が先でしょう」
「あー! 甘野(かんの)ちゃん、私のお酒返してよ~!」
 
 甘野(かんの)と呼ばれた茶髪ロングのでこ上げに紫眼の女性は恵美さんの持っていた酒瓶を取り上げる。すると、恵美さんは取り上げられた酒瓶を取り返そうと躍起になっている。

 と、もう既に酔いが回り始めているのか、大家さんはちゅうじんにマイクを押し付けてきた。
 
「それじゃあ本日の主役であるうーさん、挨拶挨拶~」
「おう!」

 ちゅうじんは笑顔で返事をすると、マイクのスイッチを入れて喋り始める。

「惑星・ルプネスから来たう・ちゅうじんだ。今は多田の家で世話になってる。地球に来たばっかで詳しいことはまだ分からないけど、これからよろしくな!」
「うぇーい! よろしく~!」
 
 大家さんはハイテンションになりながら、ピースをしてきた。他の2人も宇宙人という単語に驚きながらも、歓迎ムードのようで、ホッと息を吐く。

 ここで、甘野さんが重箱片手に俺たちへ話しかけてきた。

「たくさん料理作って来たんで、いっぱい食べてくださいね~。 あ、私は甘野(かんの)(すみ)って言います。よろしくお願いしますね」
「よろしくだぞ!」

 甘野さんはこの奇異市内にある料理の専門学校へ通っている。普段は温厚でしっかりしているが、ひとたび食のことになると熱が入ってしまう。
 
 作るのも食べるのも好きな人で、今回の交流会のために、重箱いっぱいの料理を作って来てくれている。202号室に住んでおり、このキテレツ荘で数少ないツッコミ役の1人だ。

「うーさんもお酒飲みませんか~?」
「ほらほら、遠慮なんかしないで」
「お、お酒……?」
 
 突然の勧めに困惑の表情を浮かべるちゅうじん。大家さんの他に酒を進めてきたのは、眼鏡をかけた肩にかからない程度の茶髪で金眼の恵美さん。

 301号室の住人で、彼女は普段、出版社で働きながら新人賞へ応募するために執筆業もしている。
 加えてかなりの酒豪で、こういう飲み会のときには酒瓶片手に大家さんとセットで酔いまくっていることが多い。
 
 恵美さんと肩を組みながら、日本酒をがぶ飲みしているのは201号室に住んでいる大家さん。本名は高瀬(たかせ)という苗字しか分からず、普段は飄々としてお茶らけているが、色々と謎の多い人でもある。
 
 後、楽しいことが好きなようで、月1で何かしらのイベントを開催しており、その度に俺を含めた住民たちは巻き添えを喰らっているのだ。
 
 俺とちゅうじんを含めた以上5名がキテレツ荘の住民となる。
 
「はいこれ。多田さんとうーさんの分、取っておきましたよ~」
「お、ありがとうございます」
「美味そうだな」

 ちゅうじんはさっそく甘野さんの料理を口にして、目を爛々とさせている。自分も、紙コップに注がれた酒と一緒にお手製の生姜焼きを口にした。

 おぉ、美味っ! 仕事で疲れた身体には合う。いつもはめんどくさいんだけど、たまにはこういうのも良いな。

 酒を飲みながら、桜を眺めていたら、隣に恵美さんがやって来た。

「やっほ~、多田くん」
「ど、どうも……」

 うげぇ、また厄介なのに絡まれた……。せっかくこの空気に浸ってたってのに。でも、まぁ良いか。

 その後、恵美さんの苦労話を聞きつつ酒を飲み進める。

 すると、目を疑うような光景が視界に入って来た。なんと、空き缶や酒瓶、重箱など様々なものが宙に浮いているのだ。

「は……?」

 目玉が飛び出そうなほど、目を見開いてしまう。

 いやいや、どういうことだよ⁉ 何がどうなったらそうなるんだ!? いや、待て。こんなことできるやつは1人しか居ないだろうが。

 俺は真っ先にちゅうじんの方を見る。そこには、べろんべろんに酔って茹だこみたいになっているちゅうじんがいた。俺はだる絡みしてきていた恵美さんの腕を振り払い、ちゅうじんの元へ駆け寄る。

「おい! 起きろちゅうじん!」
「ふぇ? なんだオータ、まだ飲み足りないのかよ……」

 ちゅうじんに近づいて頬を叩いて起こそうとするが、意識が朦朧としているのか、曖昧な返事しか返してこない。

 仕方なく、近くに置いてあったペットボトルの水をちゅうじんに飲ませようとする。

「だから! 起きろって!」
「なんだ……どうかしたのか?」
「どうしたもこうしたもねぇよ! お前のせいで大変なことになって――って、あれ?」

 俺がバッと後ろを振り向くと、さっきまで宙に浮いていたものが地面に戻っていた。
 
 ど、どういうことだ……?

 さっきまでの光景は嘘だったのだろうかと混乱していたら、またしても物が浮き始め、しまいには先ほど座っていたベンチまで宙に浮いてしまっている。

 その摩訶不思議な光景を呆気にとられながら見ていると、他のスペースで花見をしている酔っ払いたちが騒いでいた。

「いーぞぉ! もっとやれ~!」
「うわぁ、すっごい!」
 
 大家さんのコールに続いて、周りの人たちがどんちゃん騒ぎをし始める。恵美さんも既に泥酔しており、目の前の状況に違和感を抱いていない。甘野さんは食べるのに夢中で、この状況に気づいていないようだ。

 と、取り敢えず、早く何とかしねぇと!
 
 再度ちゅうじんの方を向いてみたら、目を閉じて眠っている。何度も頬を叩いて起こそうと試みるが、目をぼんやりと開けるだけですぐに寝入ってしまう。

 この野郎……。てか、誰だよちゅうじんにお酒飲ませたやつ……!

「おいこら! いい加減起きろ!」
「ふへへ……お酒って良いな~」
「はぁ……ったく、こうなったら」
 
 1度ちゅうじんを寝かせて、近くにあったバケツを持って、水汲み場へ移動する。蛇口を捻ってバケツいっぱいに水を入れると、それをちゅうじんへとかけた。

 その直後、ちゅうじんは驚いてガバッと身を起こして、俺の方を睨んだ。それと同時に浮いていたものが再び地面へと落下する。

「急に何するんだよ!」
「はぁ!? そりゃこっちのセリフだろーが! なかなか起きないから起こしてやっただけだろ!?」
「だからって水かけることはないだろ! おかげでびしょ濡れになったじゃないか!」
 
 俺とちゅうじんがやいのやいの言い合っていたら、さっきまで騒いでいた大家さんと恵美さんがこちらに寄ってきた。勿論、酒瓶片手に。

「こぉら、何やってんのよぉ! 喧嘩は駄目って学校で習わなかったぁ?」
「ほらほら、2人とも、公衆の面前で喧嘩は止めなさい」

 いや、あんたらも大概でしょーが。てか、この感じを見るにちゅうじんにお酒を飲ませたのって……。
 
 ちゅうじんが突っかかってくるのを阻止しながら、恵美さんと大家さんに問いかけてみる。
 
「あの、もしかしなくても、ちゅうじんにお酒飲ませました?」
「んー? あぁ、飲ませたわよ。あの子が飲んでみたいって言うから。ねー、大家さん」
「そうそう。そりゃあもう、いい飲みっぷりだったよ」

 あんたらなぁ……。仮にも初対面のやつになんてことしてんだよ。そもそもあんたらの方が大人としていけないことしてるんだから、小学校からやり直した方が良いんじゃねぇの?
 
 拳が出そうになるのを何とか堪えて、駄目な大人2人に向かってこう言う。

「全部あんたらのせいってことかよ!」
「えー? でも、うーさんが飲みたいって言ったから飲ませてあげたわけで」
「そうだそうだ!」
 
 大家さんと恵美さんが苦しい言い訳をしていたら、2人の頭へバケツの水がかけられた。何事かと思い振り返ると、どうやら甘野さんがやったようで、その表情は怒りに震えている。
 
 あ、これはヤバいやつだ……。

「4人とも何やってんですか! 周りの迷惑ってもんを考えろー!」
「す、すいませんでした……!」
 
 甘野さんが思いっきり叫ぶと、俺たちは一斉に頭を下げて謝罪する。その後、楽しい楽しい交流会は甘野さんの説教へと変わり、俺はもう二度ちゅうじんに酒を飲ませないと心に誓うのだった。