財布を差し出すと、男性が慌てた様子で自分のポケットを確認し始めた。
「ごめん。忘れて来ちゃったんだな」
「はい」
財布を渡せば私の役目は終わりだ。
とにかく相手に追いつくことができてよかった。
「ありがとう。君、家はどこ?」
「えっと、あっちですけど」
指を指して方向だけ説明すると、男性は頷いて来た道を戻り始めた。
「あ、あの……?」
「送っていくよ。もう真っ暗だし」
「私なら大丈夫ですから」
バイト先から家までの距離は2キロくらいだし、大通りを通っていけるから人も沢山歩いている。
だけど男性は譲らなかった。
「財布を届けてくれたお礼」
と言って、私の隣を歩幅を合わせて歩いてくれる。
「あの、大学生さんですか?」
沈黙が続くのも苦しいかと思って、歩きながら質問した。
「そうだよ。あのファミレスなら大学からも自分のアパートからも近いし、よく使うんだ」
「そうなんですね」



