訳知り顔で黙っている亜美には気付かず、天麗が愕然と声を上げる。
「どう云うコトですか!? 出会い厨を学校の先生にするなんて世も末です! ハテアイさんに何を学ぶって言うんですか!?」
「ひどいなぁ、アメフラシアメリン。ボクはこれでもプログラミングの腕は超一流なんだよ。その分野で請われて先生になってもおかしくないんだから。
けど卒業した今になってまだ学園にガッチリ縛られるのは、ボクも本望じゃないから、取り敢えずプログラミングの非常勤講師ってことね。来学期から宜しく」
「今日は、その手続きと挨拶に学園に居ていたハテアイさんと、保健室から出たところで久しぶりに再会したの。それで、色々あったこととか、話しがてら送ってもらったのよ」
亜美の言葉を聞いて、ようやく納得する面々だ。AIに捕らわれた者同士、通じるところや救いになる助言もあったことだろう。どこか気安い雰囲気を漂わせている。
「小者くん、ピンチですよ。はっきりしない小者ムーブをかましている間に、カレピの座が揺らいでますねぇ」
ニヤニヤする天麗に、稜斗が唇を尖らせる。
「ちっ、何で楽しそうなんだよ。亜美は、んなんじゃねぇ……」
言葉の最後は尻すぼみで、ちらちらと伺う視線を亜美に向けている。ここからようやく彼は、奮起の決意を抱くのだろう。その一歩が踏み出されるのはいつかは分からないが、ハテアイを見る亜美の目を見る限り、猶予はそうない様に思われる。
ハテアイが持ち込むであろう波乱の毎日を想像して、くふふ、と笑う天麗だ。
「来学期から、こいつが……。くそ、今の、お前の腕は認めるけどっ! 僕は絶対に追い越して見せるからな!!」
数日前の共闘者に向けるとは思えない、強いライバル心を剥き出しにした薮だ。
「あー、薮りん久しぶりだねー。そうだね、ちゃんと頑張んないとゼロの底から狙ってるモノに足元をすくわれちゃうかもしれないから、ね?」
「ゼロの底って何ですか?」
余裕の笑みを薮に向けたハテアイに、キョトンと目を瞬かせた天麗が聞く。薮は、何のことか分かっている風で、ぎりりと唇を引き結んでいる。
「自分を無くすくらいの最底辺ってこと」
「僕への宣戦布告ってことだ。惣賀さんはこんな奴の言うことなんて、聞かなくていいから!」
ガルルと噛みつかんばかりの対抗心を剥き出しにする薮に、ハテアイはついに肩をゆすって笑い出した。
「なんですか!? どういう意味ですか!?」
バチバチと火花を散らす二人だが、ハテアイとの付き合いが薮以上に長い天麗で分からないことを、何故か分かり合っている不思議が展開されている。解説を求めて、おろおろと亜美と恵利花におろおろと視線を向ける。
「私は、薮さんにプログラミングでお前になんて負けないって挑戦を受けて立ったんだと思うわ」
少し考えて、恵利花が小首を傾げながら言う。
「んー、あたしはもう一つの方かな」
言いながら、亜美はまだ食って掛かる男子二人を相手取り、余裕の対応をするハテアイを見遣る。彼は基本的に常に柔らかな表情を貼り付けている。それは、気持ちの底を見せない自身を護る防御反応に他ならないのだ。そうさせるのは、亜美とハテアイ共通の出来事――AIに心の隙間に付け入られた負の経験だ。
事件を乗り越えた亜美は思う。「自分を無くすくらいの最底辺」とは田中の名を捨てたハテアイ自身のことではないかと。その彼が狙うモノとすれば、持ち前のバイタリティで軽やかに事件や様々なしがらみを乗り越える力溢れる天麗のことではないかと。
「なんですかっ!?」
天麗の声に、思考に沈んでいた意識が浮上すれば、爛々と輝く自分を偽らない強い意思を宿した瞳が飛び込んでくる。この瞳が常に向かう先を亜美は知っている。
「スペックは対抗馬の方がずっと高いけど、惣賀ちゃんのチョイスはもう決まってるんだよねー」
ぼかした答えだが、天麗は聞くなり自信満々の笑みを浮かべて、ぐっと胸を逸らせた。
「わっかんないんですけど、迷ってる間があるなら、即行動です! 一瞬の迷いが手遅れを生むんです」
夕陽の朱に染まった頬の色を誤魔化しつつ、きらめく笑顔を薮に向ける。
「わたしは、わたしに真っ直ぐなのです!」
ゼロに沈む眠り姫は、破滅に導くプログラム ― 完 ―
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完結までお付き合いくださり、ありがとうございました!
ここまでお読みくださったあなたに、大きな感謝を込めて⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
