扉が開いたのは、ハテアイの推察した通り数秒の間だけのことだった。けれど、その短時間の間に亜美を救出した面々は、揃って計算機室を後にすることが出来た。
勿論、扉を開くにあたって美魔女の美貌の元が効果的に働いてくれたことは言うまでもない。弧を描いてブラックボックスへと飛び込んだ500mlは、持ち主と同じく優美な輝きを放っていた。
「そして、ここからがアメフラシアメリンの本領発揮なのです!! お部屋に雨を降らせて、眠り姫は欠片も残さず全滅させます!」
宣言するや、天麗は廊下に灯る赤いランプ目指して駆け出す。
「待ったぁ! もしかして惣賀さん、あの部屋のスプリンクラーを動かそうとしてるね!? ほんと待って!! すとーっぷ!!!」
大声で呼び掛けるも、立ち止まる気配のない天麗に静止の意を伝えようと、三浦は大袈裟な動きで右腕を前に突き出す。
「止めないでくださいミュウーラ! 学園が膨大な経費をかけて導入したAI設備ですが、こんな恐ろしく身勝手なプログラムが傍若無人をするモノを放っておくなんかできません! ワガママ眠り姫は、わたしの大好きな、役に立つAIをも貶める、AI界の恥さらしです」
立ち止まらずに足を進めたまま叫ぶ。あっという間に赤いランプで照らし出された非常ベルの前に辿り着いた彼女は、渾身の力でそこに付いたボタンを押し込んだ。
「けど、それただの警報装置で、水は出ないからーーーーーーー!」
「へ!?」
三浦の声を耳にしながら、天麗がポチリと押したそれは、けたたましい警報音を学園中に響き渡らせる。
「いいか!? スプリンクラーの操作盤は、警備員室にある。動かすのはそっちだから! ちょっとは大人を頼って!?」
追い付いて来た三浦の誘導で、今度こそ一行は計算機室にとどめの雨を降らせるため、警備員室へと先を急いだ。
◇◇◇
三浦の言った通り、クリーム色の金属製扉にしっかりと守られた非常時操作盤は、警備員室に設置されていた。その扉の中には、幾つもの非常時設備のボタンがまとめられている。こんなものの存在は、生徒では知るはずもない。
ちょっぴり三浦を見直した天麗は、「じゃあ」と早速ボタンに手を伸ばす。
「いや、生徒が押したんじゃあ、後々君たちの将来に喜ばしくない影を落とす可能性がある。こう云う責任重大なことは、大人に任せなさい。オレが皆の役に立てるのは、このくらいしかきっと無いから」
そう言って、凛々しく引き締まった表情の三浦が、天麗の伸ばした腕をそっと押し戻す。
が、操作盤に背を向けていた彼の背後に、するりと入り込んだ者が居た。
「後輩を導くのも、責任を取るのも、ぜんぶ先輩の務めよ」
嫣然とした笑みを、赤い唇に刻んだ綾小路だった。
