ゼロに沈む眠り姫は、破滅に導くプログラム


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「うにゅぁぁあぁっ!! ダメですよっ!? そんなAIロマンス詐欺みたいなのに引っ掛かったら!!!!」

 突然。猛烈な個性と爆音が、静寂と安寧に包まれた世界の殻をぶち壊す。

 考えることを放棄し、他者に委ねることを覚えて痺れた頭は、再起動を鈍らせて、現状を即座に把握しようとしない。

 ただ。
 それでもその存在に目を向けたのは、世界を壊す音への本能的な、恐怖でしかなかった。

 向けた目の先。そこに立っていたのは、目を惹きつけて離さない圧倒的な存在感。
 天使だ。
 無害でしかない美しく、愛らしい幻想の産物。

 けれど、動きかけた亜美の脳細胞は「そうじゃない」と激しく否定の声を上げる。
 いったん起動し始めた頭は、直近で強烈な印象を幾度も与えられた、一人の人物像をくっきりと描き出していた。

 惣賀(そうが) 天麗(あめり)

 天使の風貌を持ちながら、ずけずけとモノを言い、独自の思想で突っ走る。かと思えば情に篤い面もある一方、群れるだけの仲間には加わらない異端の存在。


「え!? あ、あんたっ、なんでここに!? 関係無いでしょ、放っといて!」

 存在の正体を認識するなり、軽い恐慌状態に陥ったのか、声を荒げた亜美が筐体(きょうたい)に縋りつく。

「あのさぁ? いい雰囲気のところ悪いんだけど、ボクも関係者だからお邪魔させてもらうよ?」

 心理的インパクトの強い天麗(あめり)で衝撃を受けていた亜美の視界。その背後に連なって、今度は視覚的インパクトの強い水色サラサラ短髪のK−POPアイドル風美青年が、視界に飛び込んで来る。

「誰!?」

 美形であっても、不審者だ。亜美は、警戒心も(あらわ)誰何(すいか)する。攻撃的でさえある亜美の問いを受けた彼は、意地の悪い笑みを浮かべてみせ、わざと引っ掛かりしか覚えない答えを発した。

「このAIの元カノ」

 嘘でもないが正確でもない。

「え!?」

 当然、困惑しかない亜美は、続く言葉が出てこない。だから、天麗(あめり)が彼の言葉を補足する。

「元カレのモラハラとDVから逃げ出し、不死鳥のごとく現実世界に復活したハテアイさんなのです!」

 かなり悪乗りはしている。が、亜美の思考能力を刺激するには充分な言葉が並んでいた。目論見通り、衝撃しかない天麗(あめり)の言葉が、真綿に包まれた流されるままの、亜美とパーソナルAIふたりきりの世界を破壊したらしい。彼女は、カッと両目を見開いて天麗(あめり)とハテアイを交互に見遣る。

「また新しい年端もいかない女のコに、コイツが手を出そうとしてんのが見逃せなくてね。元カノとしてお仕置きしに来たんだわ」

 ハテアイが、片手で支えたノートパソコンのキーボードに走らせていた長い指で、亜美が縋り付いたままの筐体(きょうたい)を示す。

「オレは、机を並べた仲間を虐げられ、可愛い教え子を危険に晒そうとしてる悪い奴をとっちめに来た」

 水色髪の青年の背後から、不審者対策に使用する『さすまた』を手にした三浦が現れる。次いで彼の隣に、愛用の500mlミネラルウォーターのペットボトルの底を前に向け、飲み口側をこん棒を構える格好で握りしめた綾小路が立つ。

「僕は自分のやったことの始末をつけに来たんだ」

 いつの間にか天麗(あめり)の傍には、タブレットを構えたままの薮が並んでいる。

「わたしは(いかり)さんに、ちゃーーんと謝ってもらうため! わざわざ来てあげたのです!!」

 天麗(あめり)は、大袈裟に胸を逸らして、左手を腰に当てながら踏ん反り返り、亜美に向けて右腕ごと真っ直ぐ伸ばした指で、ビシリと差してみせる。

「あんたら……寄って(たか)って、なんなのよっ!?」

 亜美が声を震わせた。