ゼロに沈む眠り姫は、破滅に導くプログラム


涙を流す代わりに、大きな音を立てて鼻水を啜る三浦へ呆れた視線を向けながら、ハテアイが天麗(あめり)に親しみのこもった笑みを向ける。

「で、ボクはアメリンがこの学校に転入するって聞いた時から、ボクの二の舞になるんじゃないかって心配してたんだよ。けど、毎日ちゃんとレイドボス戦やクエストには現れるから安心してたのに、最近ログインが遅くなったりして心配してたところに、今日の不在でしょ?
ついに危惧してた事態が起こったかと思ったら、アメリンじゃなかったけど、しっかり発生しちゃってるし」

どうやら出会い厨かと信じて疑っていなかったハテアイは、ただ天麗(あめり)の心配をして近付いていたらしい。自分と同じ被害に遭う可能性の高さを感じ取って。

「それで来てくれたの?」

「そ。あの時だって、先生なんてアテにならなかったしさ。何かあったら、助けてあげたいなって思ってね」

まだ若干の警戒を滲ませる天麗(あめり)に、柔らかな笑みを浮かべて頭を撫でようと手を伸ばす。けれど、彼女以上に警戒心を剥き出しにした薮が、素早くその手を跳ねのける。
意外そうに目を見開いたハテアイは「確かに彼はボクとは似てないね」と苦笑しつつ、小脇に抱えたPCバッグからノート型パソコンを取り出した。

「なにそのノート!?」

見るなり薮が、食い付く。彼の目の色を瞬時に変えたPCは、最強スペックを謳う機種で、プログラムを操る者なら誰もが所持を夢見る、垂涎の逸品なのだ。それを見抜いた薮に、真っ直ぐ視線を合わせて「ボクの決意の表れ」と呟いてみせる。

「で? AIに捕らわれた哀れなオトモダチを助けるの?」

「「もちろん」です」

ハテアイの質問に、天麗(あめり)と薮は寸分も迷うことなく声を揃えて返事を返す。

「ならあっちに気取られないうちに、さっさとカタを付けようか」

軽い調子はそのままに、纏う気配を鋭く変えてハテアイがキーボードに指を走らせる。

その指さばきをポカンと眺めていた薮に、ひっそりと手招きしたハテアイが、ボソボソと耳打ちすれば、薮は口角を下げた不満たらたらの様子を見せるも、やがて並んでキーボードを叩き始めた。
人間個人の好き嫌いは別として、窮地に活路を見出すための共同戦線を張ったのだ。

まずは、学園内に居ると思しき亜美の居場所の特定だが、薮とハテアイの二人が揃って学園マザーコンピュータにアクセスし、動きの違和感を追って行く。 
技術職員らも、実際に学園内や周辺を駆け回りって見ての確認をしつつ、PC前に座る職員は学園内に幾つも設置された防犯カメラの映像を確認してゆく。
けれど、防犯カメラをいくら確認しても、亜美と思しき者の姿は見付けられない。
必死の職員の姿を見つつ、ハテアイは気の毒そうに眉尻を下げてみせる。

「映像は、学園マザーコンピュータが管理しているから、まあ、拉致相手の姿を残すとは思えないよね」

呟きつつ、自身はプログラムから被害者生徒を見付け出そうと、作業に集中する。

カタカタとキーボードを叩く音だけが職員室に響く。

静かだけれど、激しい攻防戦が繰り広げられている。やがて、二人の指の動きが一層速度を増し、呼吸さえも止めて打ち続ける超集中没入状態となった——直後。

「「いた!!」」

薮とハテアイの声が揃う。

「あいつ、本気でやり直しをしてやがる!!」

水色のサラサラショートカットを、片手でグシャリと握り潰したハテアイが、心底苦々しげに吠える。

「計算機室です!!!」

薮の凛とした声が、希望の光を纏って、職員室に響いた。