「さあ、着いたよ~!」

 唯に連れられ、到着した教室のドア上部に掲げられた文字が目に入る。

『生物実験室』

 はあ?と、出そうになった声を礼は抑えた。いやいや、吹奏楽部が練習に使うとすれば音楽室ないし視聴覚室だろう。ここはその名の通り、生物の授業で顕微鏡とかを使う教室のはずだ。

「オイーッス!」

 と、元気よく引き戸を開く唯。

「あら唯ちゃん、入学初日はどやった?クラスに馴染めそ?」

 栗色の髪を三つ編みで一つに纏め、丸い眼鏡を掛けた女子が唯に問う。胸に付いたリボンの色が礼達の緑色と違い、青色。という事は2年生のようだ。
 
「オイッス!さくらちゃん!そりゃもうバッチリ!」

 唯は、さくらと呼ばれた2年生に笑顔で答える。 私は全然バッチリじゃあないよ、という顔をしていた礼の顔を、もう一人いた女子部員が見つめているのに気付く。リボンの色は赤。3年生だ。

「唯、その子は?」

 艶やかな長いストレートの黒髪を眉の上で綺麗に揃えた先輩は、凛としたクールビューティといった雰囲気だ。

「この子は同じクラスの赤比さん。入部希望者だよ!」

 と、二人に礼を紹介する唯。すると、二人の先輩は笑顔で礼に接近する。
「はじめまして、赤比さん。私は谷尾志麻(たにお しま)。3年生で副部長よ。よろしくね」

 と、姫カットの先輩・志麻。

「ウチは2年の春部(はるぶ)さくら!こがぁな可愛い子が入ってくれるなんて嬉しいわぁ〜」

 独特な訛りのある先輩、さくらは礼の手を取る。「可愛い」と言われ、満更でもない礼だが、それよりも気になる事があった。
 まず、ここが音楽室ではなく生物実験室だという事。 そして、部員が少ない上に誰も楽器を持っていない事、ここは明らかに自分の入りたい部ではない。その時だった。
 奥の扉─おそらく倉庫だろう、が開かれ中から四角い眼鏡を掛けた男子生徒が現れた。 ネクタイの色は赤。志麻と同じく3年生である。

「やあやあ赤比くん!僕の名は壬玄光青(みくろ こうせい)!この部の部長さ。そして……」

 光青と名乗った男子は、上下スライド式の黒板をスライドさせる。隠れていた方の黒板にはチョークででかでかと、こう書いてある。

 WELCOME TO AQUARIUM CLUB!!

「ようこそ。翠涼学園水槽学部(すいそうがくぶ)へ!!」

  ああ、絶対に違うやつだコレ。と、礼は確信した。