「いやはや、これらを倉庫から引っ張り出していたのさ」

 光青は、倉庫から持ち出したものを机の上に次々と載せていく。

「まず水槽。今やフレームレスのオールガラスが主流だが、残念ながらここには昔のものしか無くてね……」

 と、言いながら見せたのは幅60センチのガラス水槽。底と上部には黒いプラスチックの縁《ふち》が付いている。

「次に照明。これまた主流のLEDではなく蛍光灯だが」

 彼が取り出した水槽用ライトは、蛍光管を装着して使うものだが、先ほど言ったように現在ではアクアリウムの照明に用いられるのもLEDが殆どだ。

「そしてフィルターは上部式。ポンプの動作は確認済みだよ」

 何やらプラスチック製の長細い箱にポンプとパイプが付いたもの。

「底砂は大磯を使おう」

 バケツに入った、白と黒の入り交じった砂利。

「今の季節はヒーターは要らないね」
 セラミック製の棒の両端にゴムのキャップが付いた様な器具はヒーター。 水を温める器具である。 そのヒーターに接続して水温を設定するのがサーモスタットという器具なのだが……

「待ってくれ光《こう》さん、それは『バイメタル式サーモ』じゃねえか!?」

「ウチ、初めて見たわぁ~」

「私も……これ動くのかしら?」

 部員たちが見て色めき立つバイメタル式サーモスタットとは、ガラス管の中に温度計が入った様な造りをしており、今では製造すらされていない骨董品であった。

「水槽、ライト、フィルター……魚を飼うのに必要な最低限の用品は揃った。というわけで、これらを使って礼くんの水槽を立ち上げよう!!」

「私の水槽!?」

 水槽学部は部員一人につき原則1つ、水槽を管理させている。 正式な部員となった礼の管理する水槽を立ち上げるのが、今日の活動だった。

「でも私、水槽を1から準備する手順とか知りませんよ?」

「大丈夫。 君の指導は寅《トラ》にやってもらうから」

「へっ!?何で俺が?」

 光青に名指しで言われた寅之介は思わず言った。

「僕と志麻くんが引退したら、部長になるのは寅かさくらくんのどちらかだろう?ならば、今から後輩を指導する力を付けてもらわないとな。特にキミはさくらくんに比べてコミュ力《ぢから》が低いから尚更だ!」

「俺かサクかってんなら、サクが部長んなればいいじゃねえか!俺よりアクア歴も長いし、知識も技術も俺より上だ。な?サク……」

 寅之介はさくらの顔を見やる。

「寅ちゃん、ウチに大事な仕事を押しつけるん?そがぁなんは、男らしゅうないんやないの?」
「うっ!」

「寅くんね、 男らしいらしくないってワードに弱いのよ」
「漢って書いて《《おとこ》》って読むタイプだからねぇ」
「せ、責任感があるのは良いことじゃないですか?」

 志麻、唯、礼が小声で話している内容は知らず、 寅之介は覚悟を決めた。

「よーし、それじゃあ次期部長の、この須磨寅之介様が教えてやろうじゃねえか!赤比、水で汚れっから上はジャージに着替えて来い!!」

「は、はい……」

「声が小せえっ!!」

「はいッッ!!!」

「礼ちゃん、あたしも手伝うよ〜」

 気合いが入り熱血モードになった寅之介と、教室にジャージを取りに戻る唯と礼を見ながら光青はほくそ笑む。

「フフフ……寅は扱いやすくて助かるなぁ。小説って体裁を取ってる以上、登場人物が多いとややこしいから次のエピソードから基本的に礼くんと唯と寅しか出ないし、サブタイトルも行程についての表示になるぞ!」