「うーす」

 と言って入室したのは、金髪を逆立てた、身の丈180センチはある大男。上衣は学校指定ジャージだが、スラックスは制服のものだった。
 凶悪な風貌をしたヤンキー風の男を目にし礼は本能的にさくらの後ろへ隠れてしまう。

「さ、さくらさん、何ですかあの怖そうな人は?」

 小声でさくらに問う礼。

「彼は寅ちゃん。ここの部員だよ?」

「寅ちゃん!オイッス!」

「オイッス、唯。ん?そいつは誰だ……?」

 と、唯から“寅ちゃん”と呼ばれた大男はさくらの陰に隠れる礼を指さす。

「この子は新入部員の礼ちゃんよ。寅くん、怖がらせないであげて」
「俺はいつも通りだろ姐《ねえ》さん。……2年の須磨寅乃介《すま とらのすけ》だ。オマエは?」

「い、1年A組の赤比礼です!よろしくお願いします……」
「そうか。よろしくな」

とだけ言うと、寅之介は持っていた鞄をテーブルに置くや、部員の水槽が並ぶ棚へと歩いて行く。

「礼ちゃん、寅ちゃんは見た目あんな感じだけど、いい人だよ。ほら、見ててごらん」

 と、唯に促された礼は寅之介の方を見やる。

「よーし、みんなメシだぞ~……コラ寅次郎、ガイアとマッシュが食えないだろ!」

寅之介は180センチ水槽内を泳ぐ大型魚達に話しかけながら餌を与えていた。

「魚と……話してる!?」
「しかも、1匹1匹に名前まで付けて可愛がっとるんよ?」

 寅之介の後ろ姿を見て、礼は彼が見た目に反して優しい人間である事、そして外見で人を判断したのは間違いであった事を悟る。その時だ。

「よーし!!みんな揃ったな!?」
「部長!?いたんですか?」

 礼が初対面した時と同じく、倉庫から登場した光青《こうせい》。 これで翠涼学園水槽学部、全部員が集結したのだった。