龍がその隙を見逃す事なく、更に追及してくる。彼の言う女子というのは、つまり昼休みの終わり、凛と一緒に教室に戻っていた時の事についてだろう。こいつに女子の存在が知られると、今の様に不味い事になるから昨日の事は黙っていたが、これはまずい。
「い~や! お前が先駆けするのは駄目だからな! ここで追及しておかねえと!」
「なんだその理由! というか、ここ図書室だから……」
その時、ゴホンと近くでせき込む声が。龍はその声に反応するかのように急に黙り込んだ。
「あー、じゃあ……この続きはまたという事で、な?」
「え、ちょっと何荷物を……って!」
龍は出していた荷物を雑に全部、カバンに放り込むとそのまま図書室から逃亡していった。
「……高野くん、図書室では静かに。あと、城築くんにもその事を話す様に」
「……は、はい」
せき込む声を出した本人……担任の先生がやってきた。どうやら、たまたま通りがかった所でこの場面を見たようだ。
幸いにも、その注意だけで終わったものの……下手したらそこそこ長い時間拘束されていたかもしれない。龍には、文句を一つでも言いたい気持ちになりながらも、和也は荷物をまとめた。
*
「はぁ……」
ため息をしながら、帰路を歩いていた。
最後、有耶無耶な形で終わったものの、龍からの追及は明日もしてくるだろうな……と明日の事を少し憂鬱に考えつつも、和也は振り返っている。
少し真面目さを見せる彼女……そういえば、今日の昼休みも何かしていたと回想する。初めて出会った時も、わざわざ天井に引っ掛かったボールを取りに行こうとしていたし、彼女の気質がそういうものなのだろう。
……この時間だと彼女は部活動をしているのだろうか?
文化祭の準備とも言っていたし、学校にいる時間は長いだろう。確か電車で登校していると言っていたからかなり大変そうだ。そんな、他人事みたいな事を思いながら、帰路を歩いていた。
……歩いていた、筈なのだが。気づいたら家とは違う方向に来ていたようだ。目のまえに広がっているのは誰もいない広い、公園だった。
誰もいないのは時間帯。もうすぐ夕方が終わりそうな時間帯だから、ここで遊んでいた子ども達は既に帰宅しているのだろう。……それにしても、この公園には見覚えがあるような。
「あ、あのブランコは」
和也の視界の先にはブランコが見えた。このブランコを見た時、先ほどの既視感は間違いではない事がわかった。そういえば、ここで遊んだことがあった。
遊んだ時と比べると大分くすんでいるような気がする。和也が遊んだ時はまだピカピカにチェーンが銀色に光っていたのに、今、目の前にあるブランコのチェーンは少し錆びている様に見えた。更に、塗装も少し?がれている所がある。
「そっか……大分経ったんだろうな」
このブランコがこの公園に設置されてから結構な時間が経っているのだろう。和也が遊んだ時は5歳くらいの頃だった筈なので、多分10年以上はこの公園にずっといるのだろう。
そんな昔の余韻に浸っていると、そういえば朝……。
『ブランコ、楽しい?』
そんな、声を聞いた記憶はないのに、頭から離れられない。ただ、自分がこの公園の遊具で遊んでいただけの記憶だった筈なのに、何故か本当はそんな事があった様に記憶がすり替えられたような……。そんな変な感覚だった。
「お兄さん、お兄さん」
「わっ!」
急に横から声を掛けられる。驚いた和也は声がした方を向くと、すぐ傍に少年がいた。
「脅かせちゃった? ごめん」
「いや、良いんだよ……こっちこそ、声を上げてごめん」
その少年は……小学生の、低学年ぐらいに見えた。自分のお腹ぐらいに頭があるから、大分身長が低いし、体もまだまだ大きくなりそうな……そんな風に感じる。ちょっと気になる事があるとすれば、この少年の髪は少し、白っぽい事。
「お兄さんは、このブランコを見ていたけどどう思ったの?」
「えっ?」
変な質問をされた。けれど、ブランコをずっと見ていたのは事実ではある。別に、隠し事があるとかそういうのではないから話しても良いのだが……。
「う~ん……なんて言えばいいかな……」
どう思った、というには随分と抽象的な、曖昧な感想しか出てこない。なんて答えればいいか、しどろもどろに和也は頭から言葉を引き出して答える。
「このブランコを見てると、何というか不思議な事を思い出すんだ」
「不思議な事って?」
「不思議……なんというか、今までそう思っていた事が、実はそうじゃなかった。みたいな」
「い~や! お前が先駆けするのは駄目だからな! ここで追及しておかねえと!」
「なんだその理由! というか、ここ図書室だから……」
その時、ゴホンと近くでせき込む声が。龍はその声に反応するかのように急に黙り込んだ。
「あー、じゃあ……この続きはまたという事で、な?」
「え、ちょっと何荷物を……って!」
龍は出していた荷物を雑に全部、カバンに放り込むとそのまま図書室から逃亡していった。
「……高野くん、図書室では静かに。あと、城築くんにもその事を話す様に」
「……は、はい」
せき込む声を出した本人……担任の先生がやってきた。どうやら、たまたま通りがかった所でこの場面を見たようだ。
幸いにも、その注意だけで終わったものの……下手したらそこそこ長い時間拘束されていたかもしれない。龍には、文句を一つでも言いたい気持ちになりながらも、和也は荷物をまとめた。
*
「はぁ……」
ため息をしながら、帰路を歩いていた。
最後、有耶無耶な形で終わったものの、龍からの追及は明日もしてくるだろうな……と明日の事を少し憂鬱に考えつつも、和也は振り返っている。
少し真面目さを見せる彼女……そういえば、今日の昼休みも何かしていたと回想する。初めて出会った時も、わざわざ天井に引っ掛かったボールを取りに行こうとしていたし、彼女の気質がそういうものなのだろう。
……この時間だと彼女は部活動をしているのだろうか?
文化祭の準備とも言っていたし、学校にいる時間は長いだろう。確か電車で登校していると言っていたからかなり大変そうだ。そんな、他人事みたいな事を思いながら、帰路を歩いていた。
……歩いていた、筈なのだが。気づいたら家とは違う方向に来ていたようだ。目のまえに広がっているのは誰もいない広い、公園だった。
誰もいないのは時間帯。もうすぐ夕方が終わりそうな時間帯だから、ここで遊んでいた子ども達は既に帰宅しているのだろう。……それにしても、この公園には見覚えがあるような。
「あ、あのブランコは」
和也の視界の先にはブランコが見えた。このブランコを見た時、先ほどの既視感は間違いではない事がわかった。そういえば、ここで遊んだことがあった。
遊んだ時と比べると大分くすんでいるような気がする。和也が遊んだ時はまだピカピカにチェーンが銀色に光っていたのに、今、目の前にあるブランコのチェーンは少し錆びている様に見えた。更に、塗装も少し?がれている所がある。
「そっか……大分経ったんだろうな」
このブランコがこの公園に設置されてから結構な時間が経っているのだろう。和也が遊んだ時は5歳くらいの頃だった筈なので、多分10年以上はこの公園にずっといるのだろう。
そんな昔の余韻に浸っていると、そういえば朝……。
『ブランコ、楽しい?』
そんな、声を聞いた記憶はないのに、頭から離れられない。ただ、自分がこの公園の遊具で遊んでいただけの記憶だった筈なのに、何故か本当はそんな事があった様に記憶がすり替えられたような……。そんな変な感覚だった。
「お兄さん、お兄さん」
「わっ!」
急に横から声を掛けられる。驚いた和也は声がした方を向くと、すぐ傍に少年がいた。
「脅かせちゃった? ごめん」
「いや、良いんだよ……こっちこそ、声を上げてごめん」
その少年は……小学生の、低学年ぐらいに見えた。自分のお腹ぐらいに頭があるから、大分身長が低いし、体もまだまだ大きくなりそうな……そんな風に感じる。ちょっと気になる事があるとすれば、この少年の髪は少し、白っぽい事。
「お兄さんは、このブランコを見ていたけどどう思ったの?」
「えっ?」
変な質問をされた。けれど、ブランコをずっと見ていたのは事実ではある。別に、隠し事があるとかそういうのではないから話しても良いのだが……。
「う~ん……なんて言えばいいかな……」
どう思った、というには随分と抽象的な、曖昧な感想しか出てこない。なんて答えればいいか、しどろもどろに和也は頭から言葉を引き出して答える。
「このブランコを見てると、何というか不思議な事を思い出すんだ」
「不思議な事って?」
「不思議……なんというか、今までそう思っていた事が、実はそうじゃなかった。みたいな」



