聡子(さとこ)、誕生日プレゼントは何がいい?」
「え……えと、ケーキ、かな」
「そうかそうか。ホールで買って来ような!」

 もうすぐ聡子の十八の誕生日。
 俺は浮かれていた。
 十八といえば、令和ではもう成人だ。結婚だってできる。聡子が嫁に行く姿を想像すると、それだけで涙が出そうになった。
 いや、十代の内に嫁に行かせる気はないが。いくらなんでも早すぎる。
 自慢じゃないが、聡子は可愛い。親の贔屓目もあるかもしれないが、アイドルにだってなれると思う。
 でも性格は控えめだ。さっきだって、年頃の娘なら父親にブランドものをねだったりするものらしいが、ケーキだけでいいと言う。いじらしい。
 でっかいケーキを買ってこよう。やっぱり誕生日ケーキといえば、ホールケーキだろう。
 食べきれなかったら、残りは俺が食べればいい。
 シングルファザーだからって、誕生日も満足に祝えない親だとは思われたくない。

 誕生日当日。
 約束通りホールケーキを買って、家で聡子の誕生日祝いをする。
 やはりケーキだけじゃ味気ないから、流行りの服もプレゼントしてやった。
 それから、十八のお祝いに、ホームビデオを流す。
 幼少期から、順番に。

「この頃から、聡子は可愛かったなあ」

 昔のことを、今でも鮮明に思い出せる。
 幼稚園のお遊戯会。小学校の運動会。中学校の合唱コンクール。高校の文化祭。
 たくさんの思い出が、そこには詰まっていた。
 胸がじんとして、涙が出そうになる。
 ここまで、よく育てた。男親ひとりで、立派なものだ。
 もちろん、一番立派なのは聡子だが。母親がいなくても、グレたりもしなかったし、学業も優秀だった。
 県外の大学への進学を希望していたが、心配だからと説得したら、家から近い大学に希望を変更してくれた。親思いな子だ。俺の愛情が伝わっているのかと思うと、嬉しい。

「おいおい、どうした?」

 ふと見ると、聡子が泣いていた。感極まったのかもしれない。
 宥めるように、俺は聡子をぎゅっと抱き締めた。
 ホームビデオを見て泣いてしまうなんて、聡子にとっても、これらは大事な思い出なんだろう。
 もう子どもではなくなるけれど、それでも俺の大事な娘だ。
 親にとっては、いつまでも子ども。
 ずっと、いつまでも、愛している。

 ***

「あなたは、幼い頃から聡子さんに性的虐待を行っていた。この事実に、間違いはありませんか?」

 言われた内容がひとつも理解できなくて、俺は顔を引きつらせた。

「なんですか、それ。間違いしかありませんよ。虐待って。俺が聡子にそんなことするわけないじゃないですか」
「幼少の頃から、風呂に入れた時には綺麗にするためだと言って、聡子さんの性器に指を入れていた。間違いありませんか」
「それは、風呂なんですから、洗うでしょう」
「初潮が来た後から、性交を強要するようになった。間違いありませんか」
「強要って、合意ですよ。父親ですよ? どこぞの馬の骨にやる前に、娘の処女を貰う権利があるでしょう」
「間違いはないんですね」
「なんなんですか、いったい。聡子に会わせてください! 聡子なら、俺がちゃんとした父親だって証言してくれるはずです。俺たちは、すごく仲の良い父娘だったんですよ!」
「その聡子さんからの訴えです。彼女はもう、あなたには会いません。十八になり、親の庇護下から出られる年齢まで、耐えてきたんでしょう。気の毒に」

 聡子が? そんなわけはない。
 俺は頭が真っ白になった。
 だって、あんなに仲が良かった。ずっとずっと、俺は聡子を大事にしてきた。
 あんなに愛していたのに。聡子も、俺を愛していただろう。
 俺は、お前の親じゃないのか。