これは、俺が夏美ちゃんの部屋にカメラを置き忘れてきた際に、取れていた映像になる。
もちろん、使用許可は取っている。

床に置かれたカメラから夏美の部屋のドアが見えている。
「夏美、みんな帰ったの?」
ドアをノックする音の後に、母親の声が聞こえてくる。
「うん。帰ったよ」
夏美はベッドに横になったまま返事をした。
「今日はお母さんと一緒にコンビニに行ってみない? ほら、いつも雄一くんとなら行けるでしょう? だからお母さんと一緒でも行けるんじゃないかなって思って」
「欲しい物もないし、今日はやめとく」
「……そう。それなら一緒にテレビを見ない? おもしろい番組をやってるわよ」
「疲れてるからいい」
「夏美……。少しくらい自分の部屋から出てみない? 今日はいい天気だし、いつでも外へ行くのを付き合ってあげるから。そうだ。この前駅前にできたスイーツ屋さんに行ってみない? 今の時期だとスイカのパフェがあるんだって! お母さん調べてみたの。夏美、スイカ大好きでしょう?」
明るい声で話しかけ続ける母親に大きなため息を夏美が急にベッドから起き出した。
そして次の瞬間、「私に構わないでよ!」と絶叫したのだ。
ドアが開き、母親が駆けつけてくる。
「夏美、急にどうしたの夏美!?」
「いつもいつも私のこと気にして声かけてきて、めんどくさいのよ! たまにはほっといてよ!」
頭をかきむしって絶叫し、ドンドンと足を踏み鳴らすその姿はまるで子供のようだ。
「夏美落ち着いて。お母さんが悪かったから、ね? ごめんね?」
「うるさいうるさいうるさい! 出ていけ!!」
夏美が出窓に飾られている花瓶を壁へと投げつける。
白い花瓶は音を立ってて割れ、床に散らばった。
「なにするの夏美、やめなさい!」
「うるさい!! 出ていけ!!」
夏美が投げつけた枕がカメラにあたり、画面が暗転する。
これが、夏美の葛藤であり、本来の姿なのかもしれない。