雪哉に、留学先で友人が出来た。日本から留学している田端という青年だ。田端もまたゲイであった。同じく、思春期の性的少数者を救いたいという志を持っていた。
「鈴城くんには、日本に恋人がいるの?」
2人とも忙しくしていたが、昼食の時間だけは、大学の庭へ出てのんびりと過ごした。
「いたけど……別れてきた」
雪哉はそう言うと、寂しそうに笑った。
「そうなの?なんで別れちゃったの?」
田端が驚いて聞く。
「だってさ、つき合ったまま留学したら、不安でしょうがなくって、勉強に身が入らないから」
「それだけの理由で?相手に落ち度はないのに?」
悪気はないのだが、田端は素朴な疑問を口にした。
「あいつは、すっごくモテるんだ。放っておいたらどうなるか。きっと、今頃2人目の恋人でも作ってるよ」
雪哉がそう言うと、
「信じてないんだなー。もしかして、悪い人だったの?見た目だけが好きだったとか?」
田端が冗談めかしてそう言った。
「え……」
だが、雪哉は意表を突かれた。
「そんな事、ないけど。でも、すっごく女にモテて、いつでも彼女がいて、だからきっと2年半も会わずに、待てないと思って」
ほとんど、自分に言い訳をしているようだった。
「鈴城くん、君の気持ちはよーく分かるけど、でもそれだと、彼の気持ちを考えていないよね?彼は鈴城くんの事、それほど好きじゃなかったのかな」
田端にそう言われて、雪哉は空を見上げた。青空が広がる。
「僕、自分勝手だよね。それは、分かっていたつもりだったけど……涼介の気持ち、考えてなかったな。こんなんじゃカウンセラーになんてなれないね」
ふいに下を向いてしまった雪哉の頭を、田端はポンポンと優しく叩いた。