夏休みになった。俺ら3年も就職活動の一環で、企業のインターンシップに参加する。まだどんな職業に就きたいのか分からず、手当たり次第に受けた。商社1社に何とか合格し、無事インターンシップに参加する事ができた。
バイトもした。何せ合宿費用を捻出せねばならない。今までやっていたコンビニのバイトに加えて、ビラ配りのバイトもした。
そうして、8月上旬にスキー部の合宿に出かけた。夜行バスで新宿を出発し、明け方に到着した先は思いの外涼しかった。山の上は涼しい。朝は特に。
「おー!涼しい!」
バスを降りて皆口々に言う。伸びをする人も。今回は自家用車では行かないそうだ。グラススキーは雪上スキーとは板なども別物で、そういった道具は全てスキー場で借りる事になっている。それに、この後そのままリゾートホテルでバイトをするので、自家用車があると厄介なのだそうだ。
合宿は2泊3日だ。宿泊施設の部屋に荷物を置き、スキー場へ集合した。冬のスキーとは違って軽装備。Tシャツとハーフパンツという出で立ち。
俺は初めてグラススキーというものをやった。キャタピラになっている板でガタガタ言わせて滑るのだ。止まり方などけっこう雪上スキーとは違うのだが、基本的なスキルは同じだと言う。
そんでもって、やっぱり雪哉はグラススキーも上手い!滑る姿がカッコイイの何のって。
「はぁ、どうしてそんなに格好良く滑れるんだい?」
滑り去った雪哉には聞こえないのに、思わず呟く俺。だが俺だけではない。雪哉が通った後には、部員みんながボーっと見とれている。
スキー場はたいして広くはない。最初は遊びで滑っていたが、慣れてくると雪哉が言った。
「スキーと基本動作は一緒だから、意識して滑ろう。まずこの練習から」
そう言って見本を見せてくれた。出来ない、出来た、ああでもない、こうでもないと、皆楽しそうに滑っている。
「雪哉、もう一回見本を見せて」
俺はわざとそんな事を言って雪哉を滑らせた。とにかく雪哉が滑っている姿が見たい。
「どう?分かった?」
うっかり見とれていたら、下から雪哉に聞かれて焦った。
4年生は就活が忙しいようで、合宿には参加しなかった。そして、新しい部長には雪哉が選ばれた。そりゃあもう、誰だって雪哉なら文句なし。こんなにスキーが上手いのだから。
2日目の午後、自由時間になった。すると夕方から天気が悪くなり、突然土砂降りの雨が降り出した。俺たちはずぶ濡れになって集合場所のラウンジに戻ってきた。
「降りそうだとは思ったけど、ずいぶん早かったな」
「突然土砂降りだもんな」
皆、口々に言い合っている。
「全員揃ってるかな?」
雪哉がみんなに向かって言った。お互い顔を見合わせる部員達。雪哉は人数を数えた。
「あれ、1人足りないな」
数え終わった雪哉が言う。
「あ、森下がいないんじゃ?」
1年生の森下がいない事が判明した。外は土砂降り。雷も鳴っている。
「嘘だろ。こんな天気の中、まだ外にいるのか?」
井村が言った。
「探しに行こう。何かあったのかもしれない」
雪哉がそう言って真っ先に外に出ようとするので、俺は慌てて止めた。
「待て。こういう時はリーダーが動いちゃダメだ。みんなで手分けして探すから、雪哉はここに居て、みんなからの報告を待つべきだよ」
俺が言うと、
「でも」
雪哉はやっぱり出ようとする。すると他の部員達が、
「俺、探してきます!」
「俺も!」
と言って、次々に出て行った。
「みんな……無理しないでね!」
雪哉が言った。
「俺も行ってくるわ」
「俺も行くよ」
鷲尾や牧谷も飛び出して行った。俺も行こうと思ってドアに手を掛けると、
「ミッキーはここに居てやれよ。ユッキーと一緒に」
井村が言った。
「え?」
「ユッキーも独りじゃ不安だろうから」
そう言って井村も出て行った。俺はその場に残る事にした。立ち尽くしたままの雪哉。俺は雪哉の頭をポンポンと軽く叩いた。雪哉は振り返り、ほんの少し笑った。
しばらくして、びしょ濡れになった部員達が戻ってきた。いつの間にか宿からタオルをたくさん借りてきた女子部員達が、帰ってきた男子部員に次々とタオルを渡している。
「いないっす」
「ダメだ、どこにもいない」
やはり森下は見つからない。
「……どうしよう」
雪哉は呆然と立ちすくんでいる。えーと、こういう時は。
「助けを呼ぼう。うん、それだ」
俺はスマホを取り出そうとして、ふと手を止めた。いや待てよ……。
「こういう時は110番?それとも119番?」
いつの間にか雪哉がスマホを手にしている。そしてパニクっている。
「ちょっと待て。その前にリフトの所にいる職員に伝えた方がいい。適切に連絡してくれるよ」
俺はそう言った。それを思いついた時、少し冷静になれた。そして今度は俺が、ラウンジを飛び出してリフトの所へ走って行った。
スキー場の職員や救助隊が捜索してくれた。森下は滑落して森の中にいた。雨をしのぐためにくぼみに身を隠していたので、俺たちには見つけられなかったようだ。雪の季節ではないので幸い凍える事もなく、無事森下は俺たちの元に戻ってきた。だが、足を怪我してしまったので、その後病院へ行って手当をしてもらい、そのまま実家に帰る事になった。
「可愛そうだったけど、とりあえず一件落着だな」
牧谷が言った。俺たち3年生男子の部屋である。
「みんな、ありがとう。僕パニクっちゃって、全然ダメだったよ。部長失格だよね」
雪哉がそう言って、ちょっと俯いた。
「ユッキー何言ってるんだよぉ、そんなことないよぉ。誰だってパニクるって」
「そうだよ、ユッキーは良くやったよ。森下は無事だったんだし。ね」
鷲尾と牧谷が必死に慰めている。どさくさに紛れて、雪哉の肩をポンポンしたり、腕を掴んだりしている。むむ。
すると、ふと雪哉が俺の方に目を向けた。何?と目で訴えかける。すると、
「あー、涼介もありがとう。いっぱい頼っちゃったね」
うっわー、可愛い。ちょっと照れた様子でそう言った雪哉に、うっかり心奪われる俺。
「意外と頼りがいがあるじゃん、涼介」
ちょっとおどけてそう続けた雪哉に、
「い、意外とは何だ、意外とは。心外だな」
俺もおどけて口を尖らせた。雪哉が声を上げて笑った。俺はにやけるのを我慢した。いや、我慢しきれていなかったかもしれない。
バイトもした。何せ合宿費用を捻出せねばならない。今までやっていたコンビニのバイトに加えて、ビラ配りのバイトもした。
そうして、8月上旬にスキー部の合宿に出かけた。夜行バスで新宿を出発し、明け方に到着した先は思いの外涼しかった。山の上は涼しい。朝は特に。
「おー!涼しい!」
バスを降りて皆口々に言う。伸びをする人も。今回は自家用車では行かないそうだ。グラススキーは雪上スキーとは板なども別物で、そういった道具は全てスキー場で借りる事になっている。それに、この後そのままリゾートホテルでバイトをするので、自家用車があると厄介なのだそうだ。
合宿は2泊3日だ。宿泊施設の部屋に荷物を置き、スキー場へ集合した。冬のスキーとは違って軽装備。Tシャツとハーフパンツという出で立ち。
俺は初めてグラススキーというものをやった。キャタピラになっている板でガタガタ言わせて滑るのだ。止まり方などけっこう雪上スキーとは違うのだが、基本的なスキルは同じだと言う。
そんでもって、やっぱり雪哉はグラススキーも上手い!滑る姿がカッコイイの何のって。
「はぁ、どうしてそんなに格好良く滑れるんだい?」
滑り去った雪哉には聞こえないのに、思わず呟く俺。だが俺だけではない。雪哉が通った後には、部員みんながボーっと見とれている。
スキー場はたいして広くはない。最初は遊びで滑っていたが、慣れてくると雪哉が言った。
「スキーと基本動作は一緒だから、意識して滑ろう。まずこの練習から」
そう言って見本を見せてくれた。出来ない、出来た、ああでもない、こうでもないと、皆楽しそうに滑っている。
「雪哉、もう一回見本を見せて」
俺はわざとそんな事を言って雪哉を滑らせた。とにかく雪哉が滑っている姿が見たい。
「どう?分かった?」
うっかり見とれていたら、下から雪哉に聞かれて焦った。
4年生は就活が忙しいようで、合宿には参加しなかった。そして、新しい部長には雪哉が選ばれた。そりゃあもう、誰だって雪哉なら文句なし。こんなにスキーが上手いのだから。
2日目の午後、自由時間になった。すると夕方から天気が悪くなり、突然土砂降りの雨が降り出した。俺たちはずぶ濡れになって集合場所のラウンジに戻ってきた。
「降りそうだとは思ったけど、ずいぶん早かったな」
「突然土砂降りだもんな」
皆、口々に言い合っている。
「全員揃ってるかな?」
雪哉がみんなに向かって言った。お互い顔を見合わせる部員達。雪哉は人数を数えた。
「あれ、1人足りないな」
数え終わった雪哉が言う。
「あ、森下がいないんじゃ?」
1年生の森下がいない事が判明した。外は土砂降り。雷も鳴っている。
「嘘だろ。こんな天気の中、まだ外にいるのか?」
井村が言った。
「探しに行こう。何かあったのかもしれない」
雪哉がそう言って真っ先に外に出ようとするので、俺は慌てて止めた。
「待て。こういう時はリーダーが動いちゃダメだ。みんなで手分けして探すから、雪哉はここに居て、みんなからの報告を待つべきだよ」
俺が言うと、
「でも」
雪哉はやっぱり出ようとする。すると他の部員達が、
「俺、探してきます!」
「俺も!」
と言って、次々に出て行った。
「みんな……無理しないでね!」
雪哉が言った。
「俺も行ってくるわ」
「俺も行くよ」
鷲尾や牧谷も飛び出して行った。俺も行こうと思ってドアに手を掛けると、
「ミッキーはここに居てやれよ。ユッキーと一緒に」
井村が言った。
「え?」
「ユッキーも独りじゃ不安だろうから」
そう言って井村も出て行った。俺はその場に残る事にした。立ち尽くしたままの雪哉。俺は雪哉の頭をポンポンと軽く叩いた。雪哉は振り返り、ほんの少し笑った。
しばらくして、びしょ濡れになった部員達が戻ってきた。いつの間にか宿からタオルをたくさん借りてきた女子部員達が、帰ってきた男子部員に次々とタオルを渡している。
「いないっす」
「ダメだ、どこにもいない」
やはり森下は見つからない。
「……どうしよう」
雪哉は呆然と立ちすくんでいる。えーと、こういう時は。
「助けを呼ぼう。うん、それだ」
俺はスマホを取り出そうとして、ふと手を止めた。いや待てよ……。
「こういう時は110番?それとも119番?」
いつの間にか雪哉がスマホを手にしている。そしてパニクっている。
「ちょっと待て。その前にリフトの所にいる職員に伝えた方がいい。適切に連絡してくれるよ」
俺はそう言った。それを思いついた時、少し冷静になれた。そして今度は俺が、ラウンジを飛び出してリフトの所へ走って行った。
スキー場の職員や救助隊が捜索してくれた。森下は滑落して森の中にいた。雨をしのぐためにくぼみに身を隠していたので、俺たちには見つけられなかったようだ。雪の季節ではないので幸い凍える事もなく、無事森下は俺たちの元に戻ってきた。だが、足を怪我してしまったので、その後病院へ行って手当をしてもらい、そのまま実家に帰る事になった。
「可愛そうだったけど、とりあえず一件落着だな」
牧谷が言った。俺たち3年生男子の部屋である。
「みんな、ありがとう。僕パニクっちゃって、全然ダメだったよ。部長失格だよね」
雪哉がそう言って、ちょっと俯いた。
「ユッキー何言ってるんだよぉ、そんなことないよぉ。誰だってパニクるって」
「そうだよ、ユッキーは良くやったよ。森下は無事だったんだし。ね」
鷲尾と牧谷が必死に慰めている。どさくさに紛れて、雪哉の肩をポンポンしたり、腕を掴んだりしている。むむ。
すると、ふと雪哉が俺の方に目を向けた。何?と目で訴えかける。すると、
「あー、涼介もありがとう。いっぱい頼っちゃったね」
うっわー、可愛い。ちょっと照れた様子でそう言った雪哉に、うっかり心奪われる俺。
「意外と頼りがいがあるじゃん、涼介」
ちょっとおどけてそう続けた雪哉に、
「い、意外とは何だ、意外とは。心外だな」
俺もおどけて口を尖らせた。雪哉が声を上げて笑った。俺はにやけるのを我慢した。いや、我慢しきれていなかったかもしれない。



