幼馴染の彼女との別れは、最悪といえるものだった。
僕と彼女がまだ中学三年生だったその日、僕は彼女と大喧嘩をした。
大喧嘩といっても、今となっては覚えていないほど些細な原因で僕が勝手に怒っただけで、彼女はなにも悪くなかった。
その後、彼女は「家の事情」とやらによって仲直りする暇もなく引っ越していってしまった。
僕は今でも時々そのことを思い出して、悔やんでいる。
「蓮太郎、みっちゃんが会いたいって言ってるらしいわよ」
綾崎美月。それが、僕の幼馴染の名前だ。
母や昔の僕は彼女のことを「みっちゃん」と呼ぶ。
彼女の母親は時々「美月に会いに来てくれないか」と僕に言っているらしかったが、彼女は僕と会いたいとは言っていなかったらしく、それならばと半分意地の張り合いのような形で僕も彼女に会おうとしていなかった。
「美月本人が言ってるの?」
「そうよ、みっちゃんが会いたいって言ってるらしいわよ」
「……じゃあ、行く」
美月が折れてからしか会いに行くと決断できないとは、僕はなんて子供なんだろうかと嗤う。
「それじゃあお金は私が出すから、行ってらっしゃい。スイスまで」
「え、スイス?」
スイスは、ヨーロッパに位置する小国で、面積は九州とほぼ同じ。
その中でもかつて国際連盟の本部が置かれた都市――ジュネーブに、美月は住んでいるらしかった。
成田空港から、フィンランドの首都であるヘルシンキを経由し、乗り継ぎ時間を含めた総移動時間は二十時間弱。
『お金がかかるから出来れば一人で行ってほしいんだけど、行けるかしら?』
僕も一応もう高校生なので、入念な下調べのもとジュネーブ国際空港まで飛んだわけだが。
「蓮太郎、久しぶり。長旅お疲れ」
ここまで来て日本語が聞けるとは、感動だ。
「その、美月……。久しぶり」
美月とその母親がジュネーブ国際空港まで迎えに来てくれた。
僕は二年ぶりに美月と話すのが少し気まずく、素っ気ない返答をして終わったが、美月の母親はにこやかに笑った。
「蓮くん、長旅お疲れ様。うちまで少し距離があるから、車に乗ってね」
そうだ、美月の母親と小さいころ美月は僕のことを蓮くんと呼んでいた。
僕は懐かしさで眩暈がした。やっと美月に会えたような気分だった。
「……蓮太郎、ごめんね。あの日」
僕にとっては避けたかった話題が、美月の手によって掘り出された。
それは、僕たちの最低な別れの原因となってしまった最低な出来事だ。
「美月が謝る必要はない。すべて僕が悪い。本当に申し訳なかった」
僕は謝った。
下手な言い訳をつらつらと述べるよりも美月からの印象も良いと思ったから。そして、僕自身が下手な言い訳をしたくなかったから。
「いや、私が悪いよ。くだらないことで感情をぶつけちゃったのは私の方だから。本当にごめん。ずっと後悔してた。なんで蓮太郎にあんなこと言っちゃったんだろう、って」
「そんなことない、僕が悪い。もとはといえば僕がどうでもいいことにいちゃもん付けたのが始まりだから」
「いやいや私が――」
「二人とも、仲良いねえ。蓮くんが美月と仲良くしてくれて私は嬉しいよ」
責任を背負おうとそれぞれ自身に擦り付け合う僕たちを見て、美月の母親が言った。
そうか、僕たちは傍から見たら仲良く見えるのか。
「……良かった」
美月の目から涙が溢れ出る。
「美月、大丈夫? どうしたの?」
泣き始めた美月の声を聞いた彼女の母親は、心配の声をかける。
泣き始めた美月の姿を見た僕は、美月と同じように泣き始めた。
僕と彼女がまだ中学三年生だったその日、僕は彼女と大喧嘩をした。
大喧嘩といっても、今となっては覚えていないほど些細な原因で僕が勝手に怒っただけで、彼女はなにも悪くなかった。
その後、彼女は「家の事情」とやらによって仲直りする暇もなく引っ越していってしまった。
僕は今でも時々そのことを思い出して、悔やんでいる。
「蓮太郎、みっちゃんが会いたいって言ってるらしいわよ」
綾崎美月。それが、僕の幼馴染の名前だ。
母や昔の僕は彼女のことを「みっちゃん」と呼ぶ。
彼女の母親は時々「美月に会いに来てくれないか」と僕に言っているらしかったが、彼女は僕と会いたいとは言っていなかったらしく、それならばと半分意地の張り合いのような形で僕も彼女に会おうとしていなかった。
「美月本人が言ってるの?」
「そうよ、みっちゃんが会いたいって言ってるらしいわよ」
「……じゃあ、行く」
美月が折れてからしか会いに行くと決断できないとは、僕はなんて子供なんだろうかと嗤う。
「それじゃあお金は私が出すから、行ってらっしゃい。スイスまで」
「え、スイス?」
スイスは、ヨーロッパに位置する小国で、面積は九州とほぼ同じ。
その中でもかつて国際連盟の本部が置かれた都市――ジュネーブに、美月は住んでいるらしかった。
成田空港から、フィンランドの首都であるヘルシンキを経由し、乗り継ぎ時間を含めた総移動時間は二十時間弱。
『お金がかかるから出来れば一人で行ってほしいんだけど、行けるかしら?』
僕も一応もう高校生なので、入念な下調べのもとジュネーブ国際空港まで飛んだわけだが。
「蓮太郎、久しぶり。長旅お疲れ」
ここまで来て日本語が聞けるとは、感動だ。
「その、美月……。久しぶり」
美月とその母親がジュネーブ国際空港まで迎えに来てくれた。
僕は二年ぶりに美月と話すのが少し気まずく、素っ気ない返答をして終わったが、美月の母親はにこやかに笑った。
「蓮くん、長旅お疲れ様。うちまで少し距離があるから、車に乗ってね」
そうだ、美月の母親と小さいころ美月は僕のことを蓮くんと呼んでいた。
僕は懐かしさで眩暈がした。やっと美月に会えたような気分だった。
「……蓮太郎、ごめんね。あの日」
僕にとっては避けたかった話題が、美月の手によって掘り出された。
それは、僕たちの最低な別れの原因となってしまった最低な出来事だ。
「美月が謝る必要はない。すべて僕が悪い。本当に申し訳なかった」
僕は謝った。
下手な言い訳をつらつらと述べるよりも美月からの印象も良いと思ったから。そして、僕自身が下手な言い訳をしたくなかったから。
「いや、私が悪いよ。くだらないことで感情をぶつけちゃったのは私の方だから。本当にごめん。ずっと後悔してた。なんで蓮太郎にあんなこと言っちゃったんだろう、って」
「そんなことない、僕が悪い。もとはといえば僕がどうでもいいことにいちゃもん付けたのが始まりだから」
「いやいや私が――」
「二人とも、仲良いねえ。蓮くんが美月と仲良くしてくれて私は嬉しいよ」
責任を背負おうとそれぞれ自身に擦り付け合う僕たちを見て、美月の母親が言った。
そうか、僕たちは傍から見たら仲良く見えるのか。
「……良かった」
美月の目から涙が溢れ出る。
「美月、大丈夫? どうしたの?」
泣き始めた美月の声を聞いた彼女の母親は、心配の声をかける。
泣き始めた美月の姿を見た僕は、美月と同じように泣き始めた。