大正妖精綺譚

「きみが、魔導書(グリモワール)の新たな主人だ。妖精を封印しろ」
「……ぐり? は?」

 状況を飲み込めないまま、小姫(こひめ)は目の前の男を見つめた。
 数えで十七になる自分と、さほど歳は離れていないように見える。細身ですらりと背が高く、男前(ハンサム)な顔立ちをしているけれど、顔には愛想のひとつも浮かんでいない。まるで能面のようだ。
 舶来品の時計や置物、欧文の書物が並ぶ室内で、着流し姿の彼はとても浮いて見えた。

「人の話を聞いているのか」
「えーっと……」
「きみが逃がした妖精たちを、捕まえろと言っているんだ」

 高圧的な態度の能面から、『妖精』という現実味のない単語が当たり前のように飛び出してくる。
 理解が追いつかないまま、小姫は口を開いた。

「意味分かんないんだけど」

 その瞬間、それまで平坦だったその面に、ぴしりと小さなヒビが入った。