一.義兄の優しさ

新しい家に引っ越してきた日、僕は義兄と初めて会った。

母が再婚したことも、義兄がいることも、最初は全然実感がなかった。引っ越しの荷物を片付けている最中、玄関から聞こえた足音に、少しだけ顔を上げた。視線の先に立っていたのは、優しげな笑顔を浮かべた年上の男、義兄だった。

「よろしくな、今日から一緒に住むことになったんだ。」

義兄はそう言って、温かい手を差し出してきた。初対面のはずなのに、まるで前から知っていたかのように、自然に。

僕はその手を握り返し、ただその優しさに胸が高鳴るのを感じていた。心のどこかで、義兄が僕に優しくするのが当たり前だと思っていた。でも、それがどうしてだろう…理由はわからないけど、少し不安で、少しだけ安心した。

「お前、まだ慣れてないだろう?何かあったら、なんでも言ってくれ。」

義兄のその言葉は、心の中に強く響いた。それからの日々、僕は義兄にどんどん依存していった。学校で困ったことがあれば義兄が助けてくれ、家で問題があればいつも側にいてくれる。彼の存在が、僕の日常に染み込んでいく。

でも、義兄は僕の気持ちには気づかない。僕がどれだけ彼を求めても、どれだけ彼と一緒にいたくても、義兄はただ、頼りになる兄貴として接してくれるだけ。

そのことが、僕の心をだんだんと重くさせていった。

義兄と一緒に登校することになってから、毎朝の通学が少しだけ楽しみになった。

学校に行く途中、歩きながら話す義兄の声が、いつもより心地よく感じる。彼は年上だから、どこか落ち着いていて、僕のペースに合わせて歩いてくれる。それが嬉しくて、何気ない会話を繰り返しながら、いつの間にか学校までの道のりが短く感じるようになった。

「お前、朝はあまり食べないのか?」

義兄が急にそう聞いてきた。僕は軽く首を振って答える。

「いや、食べるよ。ただ、朝はあまり食欲ないんだ。」

義兄は少し考えてから、ふっと微笑んだ。

「そうか。でも、昼にしっかり食べないとダメだぞ。健康は大事だからな。」

「うん、わかってる。」

義兄の言葉はいつも穏やかで、どこか頼りにしている自分が恥ずかしい。だって、義兄は実際、僕よりも年齢が上なわけでもないし、同じ年齢だ。それなのに、どうしてこんなに頼りにしているんだろう。こんな風に、一緒に登校するだけで安心できる自分が不思議だった。

「なあ、今日も学校でいろいろ教えてくれる?」

義兄は軽く笑って、また少し歩調を緩めた。

「もちろん。お前が何か困ってたら、すぐに教えるから。」

そんな一言が、僕の胸を温かくしてくれる。義兄が僕を気にかけてくれていること、それだけで嬉しいのに、僕の気持ちはどんどん大きくなっていく。

「ありがとう、お兄ちゃん。」

その言葉が、あまりにも自然に出てきて、僕は少しだけ顔を赤くした。

義兄がその言葉を聞いて、にっこりと笑った。その笑顔が、どうしてこんなに優しくて、心に響くんだろう。同じクラスになったことで、義兄との距離が一気に縮まった気がした。

授業中、義兄は前の席で黙々とノートを取っている。僕も隣で、必死に集中しようとするけど、どうしても義兄が気になって仕方がない。教科書を見ても、ノートを取っても、どうしても視線が義兄の方に向いてしまう。

「おい、ノートちゃんと取ってるか?」

義兄の声に、ハッと我に返った。振り返ると、義兄が少し呆れた顔をして僕を見ていた。

「う、うん、取ってるよ!」

慌ててノートを見せると、義兄は少しだけ笑って、また前を向いた。でも、その笑顔に、心がドキドキして、どうしても顔が赤くなる。

昼休み、僕は義兄と一緒に食堂に行くことにした。教室で友達と話していた義兄が、僕に声をかけてきたのだ。友達が何人か一緒に行こうとしたけれど、義兄は僕と二人きりで行くつもりらしく、僕に微笑んだ。

「お前と一緒がいいんだよ。」

その言葉が、少し嬉しかった。僕の心が、また少しだけ温かくなる。

食堂で並んで座って食べていると、義兄が何気ない話をしてくれる。その度に、僕は無意識に義兄に依存している自分に気づく。

「お兄ちゃん、なんでそんなに優しいの?」

その質問が、つい口をついて出た。義兄は少し驚いた顔をしてから、少し考えるように口を開いた。

「んー、別に、なんでもないよ。ただ、お前には頼られたいんだ。」

その一言が、僕の胸を強く打った。頼られるのが好きだと言われて、嬉しさと同時に、少しだけ切なさを感じた。

「ありがとう。」

僕が小さく言うと、義兄はまた微笑んだ。

「だから、お前が何か困ってたら、ちゃんと頼ってくれ。」

その言葉に、僕はますます義兄に心を寄せていくのを感じた。


その夜、僕は寝室で布団に入っても、義兄の言葉が頭から離れなかった。あんな風に、僕が甘えるのを嫌がらないって…正直、少し驚いた。でも、それ以上に、心が温かくなった。義兄も、もしかしたら僕と同じように、僕に対して特別な感情を抱いているのかもしれない。

僕はそのまま布団に身を沈め、天井を見つめながら色々と考えていた。どうしても義兄のことが気になる。普通、家族ってこういうものなのかな?それとも、もっと違う感情が芽生えてるんじゃないか?

そんな風に悩んでいると、ふと布団の端が軽く沈む音が聞こえた。振り向くと、義兄が僕と同じベッドに横になっているのが見えた。

「おい、お前、まだ寝ないのか?」

義兄が少し面倒くさそうに言った。僕は驚いて、少し焦りながら答える。

「え、うん、もう寝るよ。」

「お前、考え込んでるから寝ないんだろ?」

義兄は言いながら、僕の隣に体を預けるように横になった。普通の家族だったら、こんなことないはずだ。でも、義兄は何も気にせず、ただ隣にいて、僕の寝かしつけを手伝っているような感じだ。

そのまま静かな時間が流れ、僕の心臓がドキドキしてきた。義兄の体温が感じられて、少しだけ緊張した。でも、どこか安心感もあって、胸が温かくなった。

「眠れないんなら、俺が横でいてやるから。」

義兄の言葉に、心の中で少しだけ嬉しさがこみ上げてきた。優しくて、僕を守ろうとしてくれる義兄に、どうしても感謝の気持ちが湧いてきて、自然に口をついて出た。

「ありがとう、お兄ちゃん。」

その言葉に、義兄は少しだけ微笑みながら、僕の頭を軽く撫でた。その優しさに、心が完全に溶けていく気がした。

「お前、寝ろよ。」

その一言を聞いた瞬間、僕はゆっくりと目を閉じ、眠りに落ちていった。隣で義兄の存在を感じながら、穏やかな眠りに包まれていった。








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二.紡がれる距離

その翌朝、目が覚めると、まだ義兄の体温が隣に感じられた。気づけば、僕は無意識のうちに義兄に寄り添って寝ていたらしい。いつの間にか、義兄の腕が僕の肩に回っていて、その温もりが心地よかった。

慌てて体を起こすと、義兄はもう起きていた。顔を洗ったのか、少し髪が濡れていて、その姿にドキッとした。いつもより少しだけ近くで見る義兄に、心臓がまたドキドキしてきた。

「お前、寝坊するなよ。」義兄が軽く言った。その声がいつも通りで、少し安心する。

「う、うん、もうすぐ起きるよ。」

僕は慌てて布団から出て、着替えを始める。義兄はその様子を見て、にやりと笑う。

「慌てるなって。お前、俺が起こしたから。」

その言葉に、僕は顔が赤くなる。義兄が寝かしつけたのに、どうしても恥ずかしくて目を合わせられなかった。

「お兄ちゃん、朝ごはん一緒に食べよう?」

僕が提案すると、義兄は少し驚いた顔をしてから、すぐに頷いた。

「いいけど、遅れないようにしろよ。」

その後、二人で朝ごはんを食べる。義兄と過ごす時間が、こんなにも心地よく感じるのは初めてだ。前はただの家族だったのに、今は何かが違っている気がして仕方がない。

食後、学校に行く準備をしていると、義兄が何気なく言った。

「お前、今日の授業、大丈夫か?」

その言葉に、僕は少し驚く。

「うん、大丈夫だよ。」

「なら、少しだけ俺に頼りにしろ。」

義兄がそのまま何気なく言ったが、その言葉がまた胸に響いた。どうして、こんなに胸が締め付けられるんだろう。

「ありがとう。」

その一言が、また自然に口をついて出た。義兄はそれに微笑んで、軽く肩を叩く。

「じゃあ、行こうか。」

そのまま二人で家を出て、学校へ向かう。隣に義兄がいるだけで、どこか安心できて、心が温かくなるのを感じながら。

時間が経つごとに、僕と義兄の距離は少しずつ、確かに近づいていった。最初はただの家族だったはずなのに、今では何かが変わっている。それは言葉では説明できないけれど、確実に感じていた。

毎朝、義兄と一緒に朝ごはんを食べて、二人で学校へ行く。学校でも、教室の隅に座る義兄を何度も視線で追い、休み時間に顔を合わせると、ふとした瞬間に感じる温もりに、胸が高鳴るのがわかる。

ある日の放課後、僕が教室で一人で残っていた時、義兄が突然教室に入ってきた。周りに誰もいないから、少し驚いたが、義兄は何事もないかのように僕の席に座った。

「何してるんだ?」

義兄がいつものように聞いてきたけれど、僕は少しだけ考えてから答えた。

「ただ、ぼーっとしてた。」

その言葉に、義兄はわずかに笑みを浮かべて、無言で僕の隣に座った。隣にいるだけで、何も言わなくても心が落ち着く。

そのまましばらく無言で座っていると、義兄がふと口を開いた。

「お前、最近なんか変だな。」

「え?」

思わず聞き返すと、義兄は少しだけ真剣な顔で僕を見てきた。その視線にドキッとする。

「なんだろうな、前よりもお前が気になる。」

その言葉に、僕は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。気になるって、どういう意味だろう?家族としてなのか、それとも、それ以上の気持ちなのか…。

「お兄ちゃんも、僕のこと気になるの?」

その質問が、自然に口をついて出た。義兄は少し黙ってから、ゆっくりと答えた。

「もちろん、お前のことは気になる。」

その言葉に、僕は心が軽くなったと同時に、どこか物足りない気持ちも湧いてきた。もっと、もっと近づきたいと感じてしまう自分がいる。

「じゃあ、もっと一緒にいてもいい?」

その問いかけに、義兄は少し考えるような表情を浮かべた。そして、静かに言った。

「お前がそれを望むなら。」

その言葉に、僕の心はまた少しだけ遠くに引き寄せられる気がした。

「じゃあ、少しだけ近くにいてもいい?」

その瞬間、義兄の顔がふと真剣に見えた。二人の距離が、少しずつ確実に紡がれていく感じがした。

その日から、僕と義兄の距離はさらに縮まった気がした。放課後も一緒に帰るようになり、家では何も言わずとも、同じ部屋で過ごすことが増えた。義兄の存在が、以前よりもずっと身近に感じられるようになっていた。

ある晩、学校から帰ってきて、夕食を終えた後、義兄と二人でリビングでテレビを見ていた。普段なら、家族として自然に過ごす時間。でも、今日は何かが違った。義兄の隣に座ることが、どこか心地よくもあり、また少し緊張を感じる。

「今日はなんだか、静かだな。」義兄がふと呟いた。

僕はその言葉に、少しだけ驚いて答えた。「うん、そうだね。」

義兄はそのまま横に座っていた僕を、ちらりと見てから、少し笑った。「お前、最近何か考えてることがあるんじゃないか?」

「え?」思わず反応してしまう。

「いや、なんとなくさ。」義兄は言いながら、手を伸ばして僕の肩に軽く手を置いた。普通、こういうことはしないはずなのに、その手の温かさが胸に響く。

「なにかあったのか?」義兄が僕の顔を見ながら尋ねる。

その言葉に、僕は言葉を飲み込んだ。正直、義兄に対する気持ちがどうしても整理できない。だけど、今の義兄の手のひらが、僕に触れていることが、それだけでどこか安心できてしまう自分がいた。

「別に…」僕はしばらく黙っていた。けれど、どうしてもその手を感じたくて、僕は少しだけ身を寄せてみた。

義兄はその動きに気づいたのか、少しだけ驚いたような顔をして、それでも僕を拒むことなく、そのまま優しく手を広げてくれた。

「お前、あんまり遠慮しない方がいいぞ。」

その言葉に、僕は思わず息を呑んだ。義兄の言葉は、まるで僕が何を考えているのか見透かされているような気がして、胸の奥で何かが弾けた。

「…どうして、僕にそんなこと言うの?」

その問いかけに、義兄は少し考えるように黙った後、ゆっくりと答えた。

「お前が…なんか、近くなってきたから。」

その言葉が、僕の心の中で何かを突き刺した。近くなってきたって、どういうことなんだろう。僕はただ、義兄と過ごしたいと思っているだけなのに…。

その時、義兄が立ち上がって、何も言わずに僕の前に立った。その背中を見ていると、どうしても言いたいことが湧き上がってきた。

「お兄ちゃん、もっと近くにいて…」

その言葉が、僕の口から自然に出てしまった。後悔する暇もなく、義兄が振り向くと、その瞳が僕をじっと見つめてきた。

その目の奥に、僕が感じているものと同じ気持ちがあることに、確信が持てた瞬間だった。

それから数日間、僕と義兄の距離はますます縮まっていった。毎日のように一緒に過ごして、言葉を交わさなくても、隣にいるだけで心が落ち着く。その温もりが、今まで感じたことのない特別なものだということに、僕は少しずつ気づき始めていた。

ある日、放課後、義兄と一緒に帰っている最中、何気なく歩いていた道で、急に足を止めた。義兄も僕の動きに合わせて立ち止まったが、何も言わずにただ僕を見ている。

「どうした?」義兄が静かに聞いた。

僕はその質問に答えることができなかった。代わりに、無意識に義兄の顔を見つめていた。その目を見つめているうちに、僕の胸が高鳴り、心の中で何かが大きくなっていくのがわかった。

「お前、最近変だな。」義兄がまた呟く。その声が、どこか心配そうで、でもどこか優しさを含んでいる。

その言葉に、僕の胸はますますざわつき、答えるのが遅れた。

「変…?」その一言を口に出した瞬間、自分でも驚くほど、自分の中で何かがはっきりとした気がした。それは、言葉にすると照れくさいけれど、確かに自分の気持ちだとわかる。

「好き。」僕は自分の心の中でその言葉をつぶやいた。けれど、義兄には言わなかった。ただ、その気持ちが僕の中で膨らんでいくのを感じるだけだった。

義兄がまた僕を見つめてきた。

「どうした?言いたいことがあるんだろ?」

その問いに、僕はもう答えを出さなければならないと思った。言葉を発するのは怖かったけれど、今、義兄の優しさに包まれながら、気づいてしまった。

「お兄ちゃん、僕…」

その一言で、胸の奥の想いが溢れ出しそうになった。でも、どうしても言葉にすることができなかった。

その時、義兄が少しだけ近づいてきて、優しく僕の肩を叩いた。

「お前、何かを言いたいんだろうけど、無理に言わなくてもいい。」

その言葉が、僕の心をほっとさせた。それでも、心の中で自分の気持ちがもう止められないことに気づいた。

「でも、僕は…」僕は言葉に詰まるけれど、心の中ではもうはっきりと答えが出ている。

義兄は無理に答えを引き出そうとはせず、ただ僕を見守ってくれた。その温かな視線が、僕の心に少しずつ寄り添ってくるように感じた。

その日、家に帰ってからも、僕の心はずっとざわついていた。「好き」という気持ちを認めるのは怖かったけれど、それが本当だと確信した。

自分の気持ちに気づくことが、こんなにも胸を苦しくさせるなんて思わなかった。でも、その気持ちを受け入れた瞬間、何かが少しだけ楽になった気がした。



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三.おんなじ気持ち

その晩、僕は寝室で布団に入ったものの、眠れなかった。義兄と過ごした時間、義兄の優しさ、そして…彼の視線。それらが頭の中でぐるぐる回り続けていた。どうしても、気持ちが整理できない。

でも、ある瞬間、ふと思った。この胸の奥がドキドキする感覚、それはただの憧れや、ただの家族としての思いではない。僕が感じているのは、もっと深い感情。確かに、義兄が好きなんだ。

心の中で、そう確信した瞬間、静かな部屋の中で僕の手が震えた。これが、「好き」だってことを自覚したことで、どうしてこんなにも苦しくて、胸が締め付けられるのか。

その時、部屋のドアが少し開いた。義兄の姿が見えた。

「寝れないか?」

義兄の声は、いつも通りの優しい声だった。でも、その声が、今日はどこか特別に響いた。僕は無意識に顔を上げて、義兄を見つめる。

「うん…ちょっと。」

義兄は無言で部屋に入ってきて、僕のベッドの横に座った。いつもと同じ、だけど今日は何かが違う。義兄が近くにいるだけで、胸の鼓動がさらに早くなっていく。

「どうした?」義兄が穏やかな声で尋ねる。

その言葉が、僕の心に火をつけた。もう、これ以上隠しきれない。僕は、義兄に伝えなければならない。

「お兄ちゃん、僕…」

言葉が上手く出てこない。でも、義兄の目を見ていると、どうしても言わなければならない気がした。

「お前、どうした?」義兄が少しだけ身を乗り出してきた。

その優しい眼差しに、僕はもう限界だった。心の奥でずっと抑えてきた想いが、溢れ出しそうになって。

「好き…だよ、僕。」

その言葉がやっと口から出た瞬間、義兄の顔が一瞬硬直した。でも、すぐにその表情が柔らかくなり、義兄は静かに言った。

「俺も、お前のことが…好きだ。」

その言葉に、僕は目を見開いた。義兄が僕に対して「好き」と言ってくれるなんて、予想もしていなかった。驚きと、嬉しさが混じって、心が震えた。

「ほんとうに…?」僕は信じられない気持ちで、義兄を見つめる。

「うん。」義兄は少し照れくさそうに笑いながら答えた。その笑顔に、僕はまた心を奪われた。

「じゃあ、僕…もっと近くにいてもいい?」

義兄はしばらく黙って僕を見つめてから、ゆっくりと頷いた。

「お前がそう望むなら。」

その言葉に、僕は思わず涙がこぼれそうになった。こんなにも心が温かくなる瞬間があるなんて、思いもしなかった。

そして、義兄が僕の手をそっと握り、優しく言った。

「お前がいれば、それだけで俺は幸せだよ。」

その一言が、僕の胸に深く刻まれた。これからも、二人で歩いていけるんだって思った。その時、ようやく僕は安心して目を閉じることができた。
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四.「それ」以上

その日から、義兄と僕の関係は少しずつ変わり始めた。心の中で「好き」という気持ちを確信してから、義兄と過ごす時間はどんどん特別なものになっていった。でも、心の中ではまだ少し不安があった。この気持ちが、本当に義兄にも届いているのだろうか?それとも、ただの一時的な感情だったのかもしれない。

そんなことを考えていたある日、放課後。学校の帰り道、いつものように義兄と並んで歩いていた。今日は、なんとなくいつもより沈黙が続いていた。義兄も何か考えている様子で、僕も口を閉ざして歩いていた。

ふと、義兄が足を止めて、僕を見つめた。その顔にはいつも見せないような真剣な表情が浮かんでいた。

「お前、最近少し元気がないみたいだな。」義兄が静かに言った。

僕は驚いて義兄の顔を見上げた。確かに、最近は少し考え込んでしまうことが多かったけれど、それを義兄が気にしてくれているなんて思わなかった。

「大丈夫だよ。」僕は軽く答えたけれど、義兄はその返事を受け流さず、しばらく黙って僕を見つめていた。

「無理するなよ。何かあったら、言え。」その言葉が、僕の心に深く響いた。義兄の優しさが、僕にとっては本当に心強かった。でも、同時に心の中で抑えきれない気持ちが膨らんでいくのを感じていた。

その瞬間、義兄が突然、深呼吸をして、目を閉じた。

「お前に伝えたいことがある。」義兄の声は、普段よりも少し低く、力強かった。

僕は思わず息を呑んだ。義兄が何を言うのか、すごく気になったけれど、同時に少し恐れもあった。もしかしたら、これから大きな変化が起こるのかもしれない、そんな予感がしたから。

義兄は少し考えるように目を閉じ、そして、やっと僕を見つめながら言った。
義兄は少し照れくさそうに、でも真剣な表情で僕を見つめた。

「・・・付き合ってくれ。」

その一言が、僕の心をさらに強く揺さぶった。もうお互いの気持ちはわかっている。でも、義兄が僕に言葉でそう伝えてくれることが、なんだかとても嬉しくて、胸がいっぱいになった。

僕はしばらく黙って義兄の顔を見つめ、そしてようやく、力強く答えた。

「うん。僕も…ずっとそう思ってた。」

義兄の表情が少し柔らかくなり、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に、僕は心の奥から温かさを感じた。

「ありがとう。」義兄はそう言って、僕の手をそっと握った。その手の温もりが、何よりも安心感を与えてくれた。

「これからも、一緒にいような。」義兄が、少し恥ずかしそうに、でも優しく言った。

その言葉に、僕は自然と頷きながら、義兄の目を見つめた。

「うん、ずっと一緒に。」

その瞬間、義兄は僕を引き寄せて、少しだけ顔を近づけてきた。僕の心臓がドキドキと激しく鼓動するのを感じながら、義兄の温かい息が僕の顔に触れる。

そして、彼は静かに、でも確かに、僕の唇に優しくキスをした。

その瞬間、世界が静止したような気がした。義兄の唇の温もりが、僕の心に深く刻まれた。そして、初めてのキスを交わしたことで、僕たちの関係が本当に恋人同士になったのだと、はっきりと感じることができた。

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