あいつ、後輩失格。
 ✓敬語使えない
 ✓勝手な行動に出る
 ✓俺より背が高い
 ✓可愛げがない
 ✓教えられることがない
(なんでもできやがるから)

 杉山舞斗は月曜日の一時間目の授業中、“自分が先輩失格”だなんて1㍉も考えず、新入生の粗さがしをする。
 眼鏡取ったらイケメンってのはよくある。
 だけど、眼鏡つけたらイケメンって。
 どういうこと?
 あの眼鏡、ドラ◯もんの道具!?
 それともキ◯レツの発明品?
 怒りで周りが見えなくなる時、舞斗は馬鹿な思考ループから抜け出せなくなる。
 こういう精神状態が、自分をまったく成長させない(むしろ後退させる)ということに気付いてはいても。



「時枝先輩。なんで俺あいつと組まされたんですか」
 放課後、舞斗は部室に入るなり部長の側まで詰め寄って感情的に言った。
 フードバンク団体のプロジェクトの一環に関わって食品をダンボールに仕分けしていた時枝がきょとんとした顔で舞斗を見ながら体を起こした。
「なに杉山。昨日のこと?柳がどうした」
 部長の時枝は入部したばかりの1年生三人の中でJと呼ばれはじめた一人の男子生徒の名を挙げた。もう一人の新入生男子はR。女子はL。
 ボランティア部の部室には今やダンボールがところ狭しと並べられている。そこをモーゼの十戒の海割りのようにかき分けて舞斗が近付いていったんだから、必死さは伝わっているはずだ。時枝には部長として真面目に対処してほしい。
「ミッションうまくいったんだろ?伊部から報告受けてる。日曜おつかれ」
 食品の仕分けと並行して企業や市民から寄せられた寄贈品を1世帯ごとに分ける作業は、月に1回はあるボランティア部の大切な活動だ。
 舞斗も慣れたものでホワイトボードに貼られた一覧表を見ながら、指示されなくても仕分け作業の続きに合流した。
「伊部の報告に入ってました?あいつの勝手な行動!」
 舞斗は手にしていたインスタント食品の容器を怒りで潰しそうになった。
「俺、小声でちゃんと制したのに!あの伊達眼鏡…常時曇りやがれ」


 日曜日は部員三人でデートDVの現場に潜入した。庭園美術館に隣接する自然園。舞斗はデートする二人を追って初めて足を踏み入れた。
 ボランティア部は時々なんでも屋のような有様になる。依頼が入ってきてしまうから。舞斗は入部してから度肝を抜かれることばかり。依頼が入った途端に時枝から「ハードボイルドに介入せよ」と指示をされ、コードネームで呼ばれる。最初はバカバカしかったけれど、今では気持ちをカチッと切り替える合図のように馴染んでしまっているのだから慣れって怖い。
 舞斗のコードネームはM。もしくは“マッド”と呼ばれる。
 1年生になったばかりのときは“マット”だったのに、舞斗がよく毛を逆立てるように怒るからという理由で“マッド”に変更されてしまった。
 今回はMとJが実行部隊。つまり舞斗と柳で3年生カップルのデート尾行と音声録音。舞斗と同級生のKもしくは“ケリー”と呼ばれている伊部圭吾が撮影係。
 加害男子生徒を刺激しないようにしながら被害女子生徒を守る方法を探るため、状況を把握する必要があった。
 依頼主は被害女子の親友。
«彼氏が服装や髪型など細かく指示するの»
«LINEで即レスしないと怒られて…»
«「別れたら死ぬ」って言われちゃった»
 こんなことを被害女子から相談された時枝のクラスメイトが助けを求めてきたのが発端だった。
 デートする場所はあらかじめ依頼主から聞いていた。尾行するのに不自然にならないようにMとJも恋人同士のフリを…という指示が出て、舞斗はジェンダーレスファッションでキメた。ゆったりしたシルエットのシャツを着てダークトーンのキャップを目深にかぶるとメンズっぽいスタイルを楽しんでいる女子に見える。こんなこと自慢にも何にもならないけど。
 路傍植物園付近に咲いていた苺の花に似たイチリンソウやニリンソウ。
(綺麗だなぁ)と舞斗は柳の横を歩きながら任務を忘れて見惚れそうになった日曜日。
 男子生徒が女子生徒に「位置情報を共有させろって」と迫って相手のスマホを奪った時、MとJはすぐ後ろの常緑樹の陰で身を寄せ合っていた。


「森の小道で俺たちが加害男子と目が合ったタイミングで柳がダンプリングバックからノート出して。俺慌てて『ミスリードすんなよ!待て!』って小声で言ったんですよ。なのにノート広げて相手に見せやがって」
 舞斗は話しながらまたムカムカしてきた。
「柳が何かノートに書いてた?それ伊部から聞いてなかった」
 眉間に皺を寄せている舞斗をなだめるような仕草をしながら時枝が近付いてきて、優しい顔で見下ろしてくる。
「でっかい字で“デートDVは犯罪”って」
「何それウケる」 
 時枝が盛大に笑った。
「いや刺激しちゃダメじゃん!小さな字で“場合によっては”ってカッコ書きで書いてたけど。相手がビビって彼女の手ひいて逃げてった。これ誤解して彼女にキレて暴力振るったりしないか心配で…」
 舞斗が表情を曇らせると時枝は明るい声できっぱりと言った。
「それで彼女が怪我すれば警察に相談しよ。暴行罪や傷害罪に該当する可能性出てくるから。いや俺、おまえが怒ってるの別のことだと勘違いしてたわ。恋人のフリしてる時に柳に抱きつかれて首の後ろ噛まれてたからさ」

 その時枝の言葉を聞いて、舞斗は「は?」と一瞬固まる。
「なんで知ってんの部長!?」
「伊部が写真送ってきた。相手に密着してる瞬間のヤバい写真だなというのが第一印象。これが加害の男子生徒かと思いながらよく見たらJだった。ウケる」
「データ抹殺して…」
 部長。何回ウケてんだよ。

 森の小道で相手に近付きすぎたかなと舞斗が心配した刹那、柳に抱きすくめられて壁ドンならぬ常緑樹ドンをされた。
 相手に尾行を悟られないようにラブシーンに持ち込んだなと納得したから身体の力を抜いてしまっていた。
 その時の柳の行為が、舞斗には全く理解できない。

―介入って外科手術くらい派手にやらないと。

 立ち去った二人を静かに見送りながら柳が静かに言ったので舞斗は声が出せなかった。

―あいつらの関係を操作して変化させるには、これくらいの痛みが必要なんだ。

 伊達眼鏡を外しながら真面目な顔で舞斗を見たので、数分前の出来事については何も取り扱えないまま帰宅したのだった。

「で、この写真に添付されてた伊部のテキストが傑作」
 そう言って時枝が左手で笑った口元を押さえながら右手のスマホを見せてきた。
 見たくないと思いながらも見ないわけにはいかないジレンマ。
 舞斗は目を細めて画面を覗き込む。

 【コヨーテJハリネズミMヲ捕獲】

「・・・」
 舞斗は小さな声で「伊部おぼえてろ」と呟いた。ダンボールの海のド真ん中で。



 

 高校の花壇にあるハゴロモジャスミンが白い花を咲かせている。
 一階にある部室の窓を開けると花の甘い香りがする放課後。平和な日とそうじゃない日の落差について舞斗は思索に耽る。
 ボランティアというにはリスク高すぎるだろ、俺らの部活動。
 そうは思うものの舞斗はいつの間にか普通のボランティア活動では物足りない体になってしまっている自分が憎い。
(蜘蛛の巣取るのが初日の活動って部活動としてどうなんだろな)
 舞斗は目の前で折り紙を折っている1年生のRとLを見る。月に1回、近隣の保育園と高齢者施設を訪問して園児や利用者と交流している。園児たちと遊ぶ時のスキルを最大限に高めるのも大切な活動って。地味すぎる。

 舞斗は柳がまだ来ていないうちに疑問を解決させようと二人に尋ねた。
「眼鏡かけた柳。見たことある?」
 手元に視線を落としていた二人が同時に舞斗を見て、それからRとLは互いに視線を合わせた。
「はい。蜘蛛の巣取る時ポケットから出して眼鏡つけてましたよ。なぁ?」
「うん。ボヤ騒ぎの後の片付けの時も眼鏡つけてたよね?消火器のピンクの泡だらけの理科室!泡部屋やばかった〜」
 そうRとLで頷きながら言い合って、また同時に舞斗に向き合う。
「眼鏡がどうしたンですか?」
 あれおかしいな。柳、眼鏡かけた途端に変わるだろ。
「えっと。それ見て何も思わなかった?」
「え?何が?」
 そうやってまた二人が互いを見る。
 舞斗はデートDVを尾行していた時の伊達眼鏡をかけた柳を思い出して、さらに疑問が深まった。眼鏡をかけた切れ長の目を見た瞬間に「どの分野でもカッティングエッジな男」というワードが脳裏に浮かんだけど、あれは何だったんだ。

 部室の一番窓側の席でノートパソコンに向かって背を向けていた伊部が立ち上がって舞斗の横まで歩いてきた。
 長い前髪で目を見せることがほとんどない伊部が立ったまま、座っている舞斗を見下ろして言う。
「学問ですら優美に洗練さをもって世に問われたもののほうに高い価値があるって言ってる」
 唐突に不思議な言葉を放つ同級生の伊部に舞斗は慣れているけれど、おそらく初めて伊部の声を聴いたであろうRとLが石みたいに固まった。
「誰が」
「モンテスキュー」
「で?それが何」
「文章はあらゆる文体で書かれるべきだし部活動も優美にハードボイルドにキメるべき」
「ハードボイルドの定義は?」
「それはJが体現してる」
 そう言って伊部が自分の首の後ろを右手で引っ張る仕草をした。
「首根っこホールドされてただろオマエ」
 舞斗は体温をマッハ20の速度で上昇させる。しかし伊部の超絶不思議トークでは1年生に何も伝わらないのが救いだった。
「ああいう冷徹さを伊達眼鏡が引き出してんだろ」
 それだけ言って伊部は窓側の定位置に戻っていった。
 今日の伊部はコンディションがとてもいいんだろう。この会話のストロークは先月の発語の一ヶ月分。
「ケリー先輩喋ったな」「伊部先輩の声ヤバいよね?もっと聴きたいッ」
 RとLがまた同時に囁やきあっている声をつむじで受け止めながら、舞斗は手元の紺色折り紙でやっこさんを作るのに夢中になっているフリを装った。
 柳に首筋を噛まれた時の一瞬の熱を思い出して顔が沸騰しそうになっていたから。


 柳が部室に入ってきた。後ろから部長の時枝も続いて入ってくる。
 時枝が声高に言った。
「MKRLJ」
 その瞬間、舞斗の細胞が組み替わる。カチッと耳元で音がした気がして姿勢を正す。
「新しいミッション。六月中旬の土日空けておいて。次は3年男子宅に友人役でMとJが訪問。依頼は本人。テーマ教育虐待。親子関係が瀕死状態。俺の中学時代の同級生。そいつの同意得てONLINEで繋げるからLとR観ておいて。Kは何かあったら介入できるように近所で待機」
 そう言った時枝の横をするっと抜けて、柳が舞斗の横の椅子に座った。
 眼鏡をかけていない柳はどこにでもいる普通の高校生にしか見えない。賢そうではあるが地味で真面目な容貌。
 舞斗はまだJになっていない柳の地味顔を見つめ続けていた自分に気付き、慌てて声を出した。
「なんで部長ばかりキャスティングボード握ってるんですか!また柳と俺が潜入?」
 舞斗が怒ると時枝がニヤリと笑った。
「Jの介入する時の言葉の使い方が秀逸なんだよ。ちゃんと聴いておいて」
 RとLが真面目に頷く。
 Jの言葉の使い方?
 伊部がさっき言っていた“優美にハードボイルドにキメる”ってやつ?

「ケルベロス」
 伊部が窓側の席で背中を向けたまま一言を放った。
 それを聞いた時枝が「あ、そっか」と反応する。
「L。デートDVの被害女子のところに明日の放課後行ってきて。スマホにケルベロス的な追跡アプリが入ってないかチェック。mSpyとかTrackViewとか入ってたらアンインストールして。追跡アプリ巧妙に隠れてるから明日またレクする。じゃあ今日は解散」

 時枝とRとLが帰った後も、柳英二は長い脚を投げ出して舞斗の横に座っていた。机の上に出しっぱなしになっていた折り紙を見てパッと笑顔になった柳を見て舞斗は感心する。いろんな表情ができるヤツだなこいつは。
 柳が折り紙で何を作り出したのか見定めようと重ねた腕の上に顔を置いて眺めていたら、柳が舞斗のまぶたに右手の中指で触れてきたので驚いた。 
「触んなよ」
 ガバっと身を起こして舞斗が言うと柳は口角を上げて静かに答える。
「頬骨のフォルム。目を伏せた時のまぶたの形」
「…はい?」
「M工芸品なみ」
「…」
 こいつヤバいヤツ?
 身を固くしたタイミングで手元に置いていたスマホにメッセージが入った。
 真後ろに居る伊部からだ。背中向けながらの送信。
【J言葉が優美】
「なぁおまえヤバいヤツ?」
 舞斗は今度はきちんと言葉にして柳に問うた。
「そんなことない」
 またメッセージが入る。
【Jヤバい】
 スマホに視線を落とした舞斗が顔を上げると、柳が切れ長の目を細めて黙って笑っている。こいつの考えていることが読めない。

 伊部からのメッセージがポコンと入った。

【コヨーテは獲物を追うのに時間をかける】

「は?」

【ハリネズミが疲れはてた時に襲いかかる】

「伊部ッやめろ!」
 舞斗が立ち上がって窓側にいる背中に怒鳴りつけている横で、折り紙を折る長身の男。

 ハードボイルドな部活動は本当にハードだ。



 
 舞斗が艶のある長めの黒髪を短くして栗色に染めたのが金曜日の夜だった。
 部長の時枝の指示は「金髪にしろ」だったが舞斗はどう頑張ってもこれが限界だった。ずっと目立たないポジションで生きてきた舞斗にとって、カラーリングして髪の色を明るくするというシンプルなことでも何故かとてつもなく恥ずかしい。
 今回の土曜日ミッションが終われば黒髪にすぐ戻さないと落ち着かないかもしれないと不安になって、美容師に二日後の日曜日にも念のため予約を入れたりしていたら準備だけでエネルギーを使い果たしてしまった。

 …もう当日はJに委ねる。

 舞斗は自宅の洗面台で見慣れない自分の姿を鏡に映し、深く息を吐いた。
 実際に時枝のシナリオでもMのセリフは用意されてはいない。舞斗は“ただちょっとヤンチャ系の同級生に扮装して今回の依頼者の父親を刺激するだけでいい”と言ってもらっている。
 後輩に「あとは任せた」だなんてちょっと格好悪いけど。
 でもあいつは本当に頼りになるから。
 素直にそう思えて舞斗は自分のステージがシフトチェンジした心持ちを味わう。
 前の自分だったら“そこにいるだけでいい”なんて言われた日には全身の針を逆立てて怒っていただろう。柔らかな髪色と柔らかな心になっている今の舞斗は、同じ言葉が甘い囁やきのようにすら聴こえる。

 全身の針を逆立ててって俺、いつの間にか自分でもハリネズミ化しちゃってますけど?

 舞斗は曇った洗面台のガラスを乱暴に拭った。
 柳があの日に折り紙で作った手裏剣をポケットに入れながら帰り際に言った言葉が耳元でこだまする。
「そこにいてくれるだけでいいんだ」
 何故あいつは俺に敬語使うのを時々忘れるんだ。


 依頼者である時枝の同級生宅があるマンション近くのコンビニに入っていくと柳がレジで清算をしているところだった。
 舞斗がサーマル素材の白の半袖カットソーにグレーのスエットパンツ姿でポケットに手を入れたまま立っていると「おはようございます」と柳が近寄ってきたので並んでコンビニの外に出た。
「誰かと思った。似いますね茶髪」
 黒シャツにデニムパンツ姿の柳が横を歩きながら舞斗を見下ろしてくる。
「前髪で今まで隠れてた額のフォルム」
 柳が声を低くして前屈みになって顔を寄せてきたので舞斗は慌てた。
「ストップ!何も言うな!ミッション開始しろ」
 舞斗の鋭い声を聞いて、柳は目を細めて笑った。マンションのエントランスホールに到着する。
 柳は肩に斜め掛けしていたダンプリングバックから伊達眼鏡を出し、そっと目元に運んでいった。



「その髪色変えないで。そのままがいい」
 マンションから出て駅までの道を歩きながら左横を歩いていた柳が小さな声で囁く。東急田園都市線の三軒茶屋駅沿線のこの辺りは閑静な住宅街だ。伊達眼鏡をかけたままの柳に言われて舞斗は「うん」と素直に頷いた。
 相手が眼鏡をつけている間だけは舞斗のひと握りの従順さが発動するという事実。それにもう目を背けてはいられない。
「俺はハードボイルドには介入できない」
 中目黒まで続く緑溢れる道を歩きながら舞斗は前を向いて言った。それから立ち止まり、左側の柳に向き合って笑って言う。
「でもバイプレイヤーとしては俺、優美で秀逸じゃない?」
 いつの間に俺は俺自身を肯定できるようになっていたんだろう。



『愛情という言葉を借りて我が子に犠牲を強いるコントロールの泥沼なんですよ』

『社会的に成功しても複雑性PTSDに苦しんでる俺の兄みたいになってもいいんですか』

『うちの親は「子どもは自分の作品」だと思っている親子のバウンダリーがないサイテーな人でしたよ。あんたもそうなの?』

 玄関の扉を開けて出迎えた父親に挨拶をする柳の後ろからロクに目を合わさずに無愛想に押し入った舞斗が、強い刺激をその父親に与えたようだった。勉強会をするからという名目で同級生が息子の部屋を訪れたというシチュエーションは依頼主と共有済みで、父親からの今までの抑圧については本人の語りも丁寧に聴いて今日を迎えた。
 初めて訪問してくる友達が一人は秀才らしく安心したが不良も紛れ込んでるじゃないかと、父親が怒りを抑えられなくなって飛び込んできたのは想定どおり。
 その時にJが語った言葉が真実なのか作り話なのか、舞斗には分からない。
 でも、瀕死状態の親子関係にハードボイルドに介入して揺さぶりをかけるには充分だった。あとは依頼主本人がどう動くか。それをボランティア部の部員が心を寄せて支えていく。
 舞斗は柳が部屋の中できっぱりと言葉を放った姿を見て、心に爪痕を残されたような衝撃を受けた。


「J。その眼鏡かけてる時だけ言うこと聞いてやる」
 目を合わせたまま舞斗が言うと、柳が笑って身を寄せてきた。
 道沿いにある公園の隅の大きなクスノキの影が二人の足元まで伸びている。舞斗はそれを俯いた視線の先で捉えた。
 今まで人に見せていなかった額に熱を感じる。
 栗色の短い髪。日焼けしていない額。目を伏せた時のまぶた。そして頬骨。
 工芸品なみに扱えよ。


 どこかでケリーが見ているかもしれない。
 この界隈を歩く人々が今振り返りながら見ているかもしれない。
 世の中の全ての人に見られてしまうかもしれない。誰も何も見ていなくて気にもしないかもしれない。 
 もうどうだっていい。今があればいい。


 舞斗の耳元で、世界が切り替わる音がまたそっと響いた。


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