それは、この村に代々伝わる、決して破ってはいけない(おきて)だった。

なぜ双眼鏡で山を見てはいけないのか?

その理由は、村人たちの間で「くねくね」という恐ろしい存在の噂として語り継がれていた。

「くねくね」は、山奥に棲むという、人ならざる者。

その姿は、まるで、木の根が()いずるように、地面を這い、くねくねと動くことから、そう呼ばれているという。

その姿を見た者は、皆、精神を病み、廃人となってしまったという。

村人たちは、その恐ろしい噂を信じ、決して山を双眼鏡で見ることはなかった。

しかし、若者たちは、その言い伝えを単なる迷信だと考えていた。

「そんなもの、いるわけがない。」

そう思った若者たちは、好奇心から、こっそりと山を双眼鏡で覗き始めた。

ある日、村の若者、文雄は、山を双眼鏡で覗いていた。

彼は、山奥に、奇妙な動きをしているものを発見した。

それは、まるで、木の根が這いずるように、地面を這い、くねくねと動いていた。

文雄は、その奇妙な動きに、ゾッとした。

しかし、彼は、恐怖よりも、好奇心の方が勝っていた。

彼は、双眼鏡を離すことができず、その奇妙な動きを見つめ続けた。

すると、その奇妙な動きは、次第に、人間の形に近づいてきた。

それは、まるで、人間が這いずるように、地面を這い、くねくねと動いていた。

文雄は、その光景に、言葉を失った。

それは、まさに、村人たちの間で語り継がれていた「くねくね」だった。

文雄は、恐怖に震えながら、双眼鏡を落としてしまった。

恐怖のあまり、彼は、その場から逃げ出した。

しかし、彼の心は、すでに、恐怖に支配されていた。

文雄は、夜になると、悪夢を見るようになった。

夢の中で、彼は、くねくねに追いかけられる。

くねくねは、彼の背後から、這いずるように近づいてくる。

文雄は、必死に逃げようとするが、くねくねは、彼を執拗に追いかけてくる。

そして、彼は、ついに、くねくねに捕まってしまう。

くねくねは、彼の体を、ゆっくりと、ゆっくりと、くねくねと曲げていく。

文雄は、耐えられずに、目を覚ました。

しかし、彼の心は、すでに、恐怖に支配されていた。

彼は、精神を病み、廃人となってしまった。

村人たちは、文雄の姿を見て、再び、山を双眼鏡で見ることの危険性を思い知った。

「山を双眼鏡で見るな。それは、くねくねを見ることになる。くねくねを見た者は、皆、精神を病む。」

村人たちは、その言葉を、子供たちに語り継いだ。

そして、村人たちは、再び、山を双眼鏡で見ることはなくなった。

しかし、山奥には、今も、くねくねが棲んでいる。

夜になると、山からは、奇妙な音が聞こえてくる。

それは、くねくねが、地面を這いずる音なのか、それとも、人間の悲鳴なのか。

誰も、その答えを知らない。