田舎のお婆ちゃんから聞いた言い伝え

 廃墟旅館「月影荘」。その不気味な噂は、翔太、雄大、澪の3人にとって、週末のちょっとした冒険だった。

 翔太、几帳面な性格の会社員。事前にネットで月影荘の情報を集め、地図にルートを書き込み、懐中電灯と非常食、そして念のため持参した応急処置セットをリュックに詰めていた。計画性と準備は、彼のいつものスタイルだった。

 雄大、写真が趣味のフリーター。最新のミラーレス一眼レフカメラと三脚、そして、予備バッテリーをしっかり準備。廃墟の雰囲気を捉え、SNSにアップロードすることを既に想像していた。少しばかりの恐怖は、むしろ創作意欲を高めるスパイスだと考えていた。

 澪、読書好きの大学生。彼女は、地元の図書館で月影荘に関する古文書や怪談話を探していた。古びたノートとペンを携え、何か面白い発見があることを期待していた。少しばかりの恐怖は、彼女にとって、日常の退屈な読書とは違う刺激だった。

日没直前、3人は月影荘に到着。翔太は、地図を確認しながら、一番安全そうなルートを選び、慎重に旅館へと近づいていった。雄大は、カメラを構え、廃墟の全景を撮影。既に、SNSの投稿内容を頭の中で練っていた。「廃墟旅館探索!果たして幽霊はいるのか…?」と、心の中で呟いていた。澪は、旅館の入口付近に落ちている瓦礫を拾い上げ、古い木片や錆び付いた金属片を興味深げに観察していた。

夜が更け、森の奥から、不自然な音が聞こえ始めた。雄大は、カメラのズーム機能を使って、音のする方向を撮影。
「あれ…何か動いてる…?」
と、呟きながら、動画を撮影し続けた。

翔太は、懐中電灯の光を頼りに、周囲を確認。何かが這ったような跡を発見し、少しだけ背筋が寒くなった。

澪は、ノートに、聞こえた音や、感じた雰囲気をメモに書き留めていた。
「…風の音ではない…何かが…近くにいる…」
と、書き込みながら、少し震える手でペンを握っていた。

突然、
「グェーッ」
という、獣の唸り声のような悲鳴が、彼らのすぐそばで響き渡る。雄大は、思わずカメラを落としそうになった。翔太は、懐中電灯を照らしながら、3人で協力して、旅館から逃げ出した。澪は、メモを取りながら、その様子を記録していた。

彼らは、恐怖と興奮が入り混じったまま、月影荘を後にした。 翔太は、無事に帰還できた安堵感を感じた。雄大は、撮影した写真と動画を編集し、SNSに投稿することを楽しみにしていた。澪は、ノートに書き留めた情報を元に、物語を創作することを考えていた。 月影荘の体験は、彼らの日常に、ちょっとした刺激と、忘れられない思い出を残したのだった。

彼らは、闇の中に逃げ込んだ。しかし、闇は、彼らを包み込み、逃げ場を奪う。 一つ目小僧は、彼らのすぐ後ろに、すぐそばに、常に存在していた。その小さな白い影は、闇に溶け込み、そして、突如として現れ、彼らの視界を奪う。

彼らは、狂ったように逃げた。しかし、一つ目小僧は、決して彼らを離れなかった。その冷たい小さな手が、彼らの足を、腕を、そして、首を掴もうとしてくる。

彼らは、森を抜け出し、村の端までたどり着いた時、完全に意識を失っていた。気が付くと、彼らは、村の神社の境内、土の上に倒れていた。

3人は、二度と月影荘には近づかないと誓った。しかし、彼らの心に刻まれた恐怖は、消えることはなかった。一つ目小僧の冷たい手触り、耳をつんざく悲鳴、そして、闇に潜む、その不気味な存在。それは、彼らの魂に、永遠の悪夢を刻み込んだ。そして、月影荘の周辺では、今もなお、一つ目小僧の噂が、恐怖と共に語り継がれている。
 古びた墓標が立ち並ぶ、村はずれの墓地。生い茂る雑木林は、薄暗い影を落とし、昼なお暗い空間を作り出していた。その奥にひっそりと佇む小さな火葬場。コンクリート造りの近代的な火葬場とは異なり、それはまるで朽ち果てた小屋のようだった。

 私の家系は、江戸時代から続く旧家。代々受け継がれてきた墓は、苔むして文字が判読できないほどに古びていた。その墓のそばで、私は村の葬儀を何度も見てきた。

故人の遺体は、すでに小さな棺に納められていた。その棺を担ぐのは、喪服から白い着物に着替えた遺族の男たち。彼らの顔は、悲しみと疲労の色で覆われていた。

前日が雨だった日は、墓地への道はぬかるみ、足元は滑りやすかった。男たちは、ぬかるんだ道を慎重に、しかし力強く進んでいく。彼らの足取りは、重く、そして沈痛だった。

火葬場の小さな炉は、煙を吐き出し、不気味な音を立てていた。火夫は、炉の火を絶え間なく見守り、調整していた。彼の顔にも、疲労の色が濃く浮かんでいた。

棺が炉に納められると、男たちは静かに祈りを捧げた。彼らの祈りは、悲しみと、故人への鎮魂の念で満たされていた。

火葬が終わると、男たちは白い着物を脱ぎ、再び喪服に着替えた。彼らの顔には、疲労と喪失感、そして何とも言えない虚脱感が漂っていた。

しかし、その葬儀には、いつもと違う何かがあった。それは、視線だった。

誰かが、私を見ているような気がしたのだ。

それは、墓地の木々の間から、あるいは墓標の陰から、私をじっと見つめる視線だった。冷たい、そして鋭い視線。

その視線は、故人の霊なのか、それとも…

私は、恐怖に慄いた。

その夜、私は悪夢を見た。

夢の中で、私は墓地にいた。漆黒の闇の中で、白い着物を着た男たちが、棺を担いで彷徨っている。彼らの顔は、影に隠され、表情は全く見えない。

そして、彼らの背後から、何かが迫ってくる。それは、巨大な影で、その形は全く分からなかった。

私は、叫び声を上げたが、声は出なかった。

私は、逃げようとしたが、足が動かなかった。

そして、私は、その影に飲み込まれてしまった。

私は、目を覚ました。

額には、冷や汗が流れていた。

それからというもの、私は村の葬儀を見るのが怖くなった。

あの冷たい視線、あの不気味な影。それらは、私の心に深く刻み込まれていた。

ある日、私は村の古老に、あの葬儀の話をした。

古老は、私の話を静かに聞いていた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「昔、この墓地では、多くの悲しい出来事があった。人々は、その悲しみを、この地の霊に託した。そして、霊たちは、今もこの地を彷徨っている…」

古老の言葉は、私の恐怖をさらに増幅させた。

私は、村を離れることを決めた。

しかし、村の葬儀、そしてあの冷たい視線は、今も私の心に深く刻み込まれている。

それは、決して忘れることのできない、恐怖の記憶として。
 雪深い山道。視界を遮るほどの猛吹雪が、容赦なく襲いかかる。凍えるような寒気が、肌を突き刺す。山小屋から一歩も出ずにいればよかったと、後悔が込み上げてくる。しかし、既に手遅れだった。

忠夫は、雪山で遭難した。同行していた仲間とは、視界不良の中で離れ離れになり、一人きりになってしまったのだ。携帯電話は圏外。頼みの綱だった懐中電灯も、電池切れを起こし、闇に包まれた。

体力の限界を感じ始めた頃、視界に白い影が飛び込んできた。最初は、雪の塊かと思った。しかし、近づいてくるにつれ、その影は次第に人型を帯びていく。

それは、見事なまでの美貌の女性だった。白い着物に、黒髪が風になびいている。まるで、雪の妖精のような、幻想的な美しさ。しかし、その美しさとは裏腹に、彼女の瞳には、底知れぬ冷たさが宿っていた。

「迷子ですか?」

彼女の言葉は、雪の結晶のように、冷たく、鋭く、忠夫の耳に突き刺さる。

「はい…」

震える声で答えると、彼女はゆっくりと近づいてきた。彼女の吐息は、白く凍りつき、忠夫の顔に当たる。その冷たさは、尋常ではない。まるで、生きた氷に触れているかのようだ。

「寒いですね…」

彼女は、忠夫の肩に手を置いた。その瞬間、私の全身が凍り付くような感覚に襲われた。彼女の肌は、氷のように冷たい。まるで、死人の肌に触れているようだ。

「一緒に、温まりませんか?」

彼女は、忠夫を山小屋に誘う。その誘いは、悪魔のささやきのように、忠夫の心を揺さぶる。しかし、彼女の冷たさ、彼女の瞳の奥に潜む闇を感じて、私は恐怖に慄く。

「…すみません、一人で大丈夫です…」

忠夫は、必死に断ろうとする。しかし、彼女の力は、想像をはるかに超えていた。忠夫の体は、彼女の意志のままに動いている。まるで、操り人形のように。

彼女は、忠夫の手を取り、山小屋へと導いていく。その手は、氷のように冷たい。しかし、その冷たさとは裏腹に、彼女の力は、驚くほど強い。まるで、鉄の爪で掴まれているかのようだ。

山小屋の中は、予想以上に寒かった。暖炉は消えており、部屋には、凍えるような冷気が充満している。彼女は、暖炉に火をつけるでもなく、ただ忠夫をじっと見つめている。

彼女の瞳は、まるで、深い闇の淵のように、底知れぬ恐怖をたたえている。その瞳に吸い込まれそうになり、忠夫は目をそらすことができない。

「あなたは、美しいですね…」

彼女は、忠夫の顔を優しく撫でる。その手は、依然として氷のように冷たい。しかし、その冷たさとは裏腹に、彼女の言葉は、甘く、妖艶だ。

「でも、あなたは、すぐに凍ってしまうでしょう…」

彼女は、忠夫の耳元で囁く。その声は、雪の結晶のように、冷たく、鋭く、忠夫の耳に突き刺さる。

「なぜ、こんなことを…」

忠夫は、彼女に問いかける。しかし、彼女は何も答えない。ただ、忠夫をじっと見つめている。その瞳は、まるで、忠夫の魂を奪おうとしているかのようだ。

彼女の冷たい指が、忠夫の頬に触れる。その瞬間、忠夫の体の感覚が、徐々に失われていく。まるで、氷の中に閉じ込められていくようだ。

視界がぼやけていく。意識が遠のいていく。忠夫は、彼女の冷たさに、完全に支配されていく。

最後の意識の中で、忠夫は彼女の美しい顔を見た。しかし、その顔は、徐々に歪んでいく。まるで、鬼のような、恐ろしい顔へと変化していく。

そして、忠夫は、永遠の眠りについた。

 数日後、捜索隊が忠夫を発見した。忠夫は、凍りついたまま、山小屋の中で息絶えていた。忠夫の傍らには、白い着物姿の美しい女性の姿はなかった。ただ、凍てつくような冷気だけが、残されていた。

 それからというもの、雪山で遭難した人の話には、必ず雪女の噂がつきまとうようになった。美しい女性の幻影、そして、凍えるような冷たさ。それは、雪山に潜む、恐ろしい存在の証だった。 人々は、雪女の物語を語り継ぎ、雪山への畏怖の念を、いつまでも胸に刻み続ける。 雪女の呪縛は、永遠に続くのだ。
 村はずれの、朽ちかけた杉の巨木が寄り添うように立つ一軒家は、まるで呪われたかのように静まり返っていた。かつては、仕事熱心で明るい青年と、その優しい母親が暮らしていた家だ。しかし、今は、窓ガラスには埃が厚く積もり、庭には雑草が膝まで伸び放題。ひび割れた土塀からは、廃墟の息遣いが感じられた。



青年、三郎は、かつてこの村で誰もが認める働き者だった。しかし、母親の認知症は、彼の生活を根底から覆した。懸命な介護の日々も、母親の死には抗えず、三郎は深い悲しみに沈んだ。仕事も辞め、酒に溺れる日々。村人との交流も途絶え、やがて彼はこの家から一歩も出なくなった。唯一の接点は、酒屋への酒の注文だけだった。



 それから数ヶ月後、異臭が村中に漂い始めた。最初は誰の家のものか分からなかったが、風向きと臭いの強さから、三郎の家であると特定された。腐敗臭、生臭さ、そして何とも言えない、獣のような臭いが混ざり合った、吐き気を催すような悪臭だった。



村人たちは不安に駆られた。三郎の様子がおかしいことは、皆知っていた。しかし、誰も彼に近づくことができなかった。彼の閉ざされた世界に、誰も踏み込む勇気がなかったのだ。



ある日、勇気を出して彼の家を尋ねたのは、村で一番の古株である老婆、お浜さんだった。お浜さんは、三郎の母親と親しかった。彼女は、三郎の異変をいち早く察知し、彼の様子を見に来たのだ。



しかし、家の前まで来ると、お浜さんは足が止まった。家の周囲には、異様な静寂が漂い、空気さえ重く感じられた。窓から覗き込もうとしたが、厚い埃と、何とも言えない不気味さを感じ、断念した。



その夜、お浜さんは、村長に相談した。村長は、警察に通報することを提案したが、お浜さんはそれを拒否した。警察を呼ぶことで、村に余計な騒ぎを呼ぶことを恐れたのだ。代わりに、数人の村人と共に、三郎の家を訪れることにした。



夜、懐中電灯を手にした数人が、静かに三郎の家の前に集まった。戸口のノッカーは朽ち果てており、代わりに、戸をそっと叩いてみた。反応がない。何度か叩いても、返事はない。



ついに、お浜さんが、戸を開けることにした。戸は、驚くほど簡単に開いた。まるで、最初から開けっ放しだったかのように。



家の中は、想像を絶する光景だった。埃とゴミが散乱し、空気が淀み、異臭はさらに強烈だった。そして、居間の片隅で、三郎は発見された。首には、縄が巻き付いている。彼は、自らの手で命を絶っていたのだ。



しかし、それだけではなかった。三郎の傍らには、何やら奇妙なものが置かれていた。それは、人間の骨のような、白く小さな骨のかけらだった。数え切れないほどの骨のかけらが、床に散らばり、まるで、何かが砕かれた跡のように見えた。



さらに、異臭の原因が明らかになった。それは、三郎の母親の遺体だった。腐敗が進んでおり、形も判別できないほどだった。しかし、奇妙なことに、遺体の周囲には、奇妙な粘液のようなものがこびりついていた。まるで、何かが遺体を舐めまわしたかのような跡だった。



警察が到着し、現場検証が行われた。三郎の死因は自殺と断定されたが、母親の遺体の状態、そして、無数の骨のかけらは、謎のままだった。



 それからというもの、三郎の家の周囲には、夜になると、奇妙な音が聞こえるようになったという。風の音とも、獣の鳴き声とも違う、何かがうめき声を上げるような、不気味な音だ。



そして、村人たちは噂し始めた。三郎の母親の遺体から見つかった粘液、そして、無数の骨のかけら…それは、何か、人間ではない何かが、三郎の母親、そして三郎自身を襲った証拠ではないかと。



 村はずれの、朽ちかけた杉の巨木が寄り添うように立つ一軒家は、今も静かに、そして不気味に、村を見下ろしている。その家には、かつての幸せな家族の面影はなく、ただ、深い闇と、忘れ去られた悲劇だけが、残されていた。そして、夜になると、あの不気味なうめき声が、村中に響き渡るのだ。
 都会から田舎に移住してきた青年、俊夫(としお)は、不思議な力があり、ただ霊感が強くて見えるだけでなく、人に憑いている霊や、その辺にいる霊まで「食べる」ことが出来るという。村人たちは皆誰一人として、その話を信じてはいなかった。



しかし、ある日村人の邦男(くにお)が俊夫に肩をポンと叩かれ、俊夫が何やら食べたようなので、邦男が俊夫に聞いてみた。

「わしに、何か憑いていたか?」

俊夫は

「肩に、霊体2体は重かったでしょう。もう大丈夫です。僕が食べましたから。」

邦男は驚き、肩を動かしてみて

「肩が軽くなった!肩、上がらなかったのに上がる!!」

とたいそう喜び、家に帰った邦男は家族に、俊夫の不思議な力の話は本当だった、と話した。



噂は村全体に広まり、俊夫の家には村人たちが次々に訪れていた。

「あんた、腰重かったろ?そりゃあ、霊体5体も背負ってたら…。」

「霊体ってどんな味がするんだ?」

「ああ、結構旨いんですよ。」

「そうなのか…。ああ、腰がすごく楽になった。ありがとうよ!」

「いやいや、お安いご用。」

村人たちは、

「最近はよく眠れるようになり、体調もすこぶるよくなったんだ。お前さんのお陰だ。」

「私も子どもは出来ないと諦めかけていたのに、授かることが出来たよ…。」

と皆俊夫に感謝の言葉を述べた。



 祖母も霊感が強く、見える人ではあったが、俊夫のように霊体を「食べる」なんてことは出来なかった。



しかし、俊夫にも「食べれない」霊体があった。それは、生き霊だ。生き霊だけはどうすることも出来なかった。



しかしながら、村人たちは自分たちに取り憑いた霊体、その辺にいる霊体を次々と俊夫に食べてもらったお陰で、身体も楽になり、村には平穏が戻ってきたかのように思えた、と祖母の日記には記されていた。



その記録では、まるでこの後に起こる村の災厄を暗示していたかのようだった。



もう、日記は祖母が亡くなった時に棺の中に入れて燃やしてしまったが、日記は、次は母親に引き継ぐべきだったのだろうか?



それは今となっては、誰もわからない。

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